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7-37 とある亜人の不穏な記憶7

 あれから他の集落に合流し、三ヶ月が経った。


「おねーちゃん!」

「おはようございます。今日も早いですね。稽古ですか?」

「うん!」


 建物はなく、森をほんの少し切り開き踏み固めた場所に、朝早くから亜人の子供達と龍城さんが集まる。


 一ヶ月前の襲撃で自分達にも抗う力が欲しいと武術を学びたがった子供達に龍城さんが教える、師匠と弟子のような関係が生まれていた。


「おねーちゃん、今日こそは木刀握らせてよ!」

「まだ駄目です。危ないので」

「えー!?」

「まだちゃんと刀を振るための力も体力も技術も精神性も身に付いてないから駄目です。こんなものでも人は殺せてしまうんですから」


 師弟関係といっても、まだ純真無垢な子供に簡単に武器をもたせることもできず、環境が良くなかったのかまだ若いからか、体も心も出来上がってない子供達はまだ走り込みや筋トレ、座学といった基礎トレーニングからだった。


「はーい。でも、いつかちゃんと剣教えてね!」

「もちろん。むしろ剣を振るための下積みなんですから、土台ができればちゃんと教えてあげますよ」


 子供達はその言葉に嘘はないと信じきり、全力でトレーニングに打ち込む。


「元気だな」

「はい、元気ですね」


 そんな子供達を見守るように、ダイアさんが訓練場にやってくる。


「んじゃ、今日も頼む」

「はい。では──」


 子供達とは違い、ダイアさんは木刀を握り、素振りから始める。

 子供達が訓練を始めるようになってから、自分も鍛えたいと言ってダイアさんも参加するようになったのだ。


 身体能力も精神性も問題ないと龍城さんは判断し木刀を持っての訓練に移っている。


「ぜぇ──ぜぇ──ダイアお兄ちゃんずるい!」


 しかし残念ながらそれが原因で子供達との喧嘩の原因になってたりもする。


「駄目ですよ、そんなこと言ったら。ほら、次は筋トレです」

「えー!?」


 走り込みが終わったのを確認し、龍城さんは次の訓練に移る。


「っ──また?」


 その続きを見ようとすると、ノイズがかかったように視界が乱れ、場面が飛ぶ。


 私の魔術の腕が悪いのか、黒幕の妨害か、最近はこういう不具合が増えてる。

 できるだけ見たいけど……まあ、仕方ない。まだ未熟な私が悪いのだ。


 そう諦めて、次の場面を見る。


「──つまり、どういうことだ?」

「ヒトに居場所が見つかったんじゃないのか?」

「いや、そういう確証はないだろ。ちゃんと見張りも哨戒もやってる。それで見つかったような痕跡はない」

「しかし動きが不審にすぎる。思いきって集落の場所を移すべきだ」

「それを今やるのは負担が──」


 会話を聞く限り一ヶ月前と同じように、人が攻めてくるかもという内容だった。


 どうも人側に不審な動きがあったらしく、武器や人材を集めてるらしい。


 それからしばらく話し合い、出た結論は現状維持。短期間に移転するのは子供達に負担がかかることに加え、物資が不足してる現状で狩り場や木の実の群生地を手放すのは惜しいということが理由らしい。


 多少不安があっても破滅のリスクは取りたくない。それが亜人の年長者達が出した結論だった。


「では、今日は解散とするかのぅ」

「わかりました。それでは長老、お疲れ様です」

「おう。お疲れさま」


 その日の会合は終了し、各々自分のテントに帰っていく。


 そこからまた、少し場面か飛ぶ。


「……またか」


 視界がノイズで満たされ、視界が晴れたと思ったら場面が飛んでいた。


 見えるのは、怯え、不安、焦燥で満ちた亜人の人達の表情。

 そしてそれを取り囲む、賊達。


「……居場所、バレてたんだ……」


 この状況を見る限り、そう判断するしかない。

 多分、前回と同じように奇襲を受けたんだ。


 でも、一方的にやられてるわけじゃない。


「はぁッ!大丈夫ですか!?」


 龍城さんが、賊を組み伏せ、木刀で叩き斬るように殴り倒し、子供を中心に避難させていく。


「はぁ──くっ──!」


 けど、あまり状況は良くない。

 前回と違って盗賊の人数が多すぎる。


「っ──ダイアさん!一人抜けました!」

「っ──すまん!こっちも手一杯だ!」


 ……まずい、崩れ始めた。


「きゃっ!」

「お前っ──ぐっ──!」


 後ろを気にかけた隙をつかれ、後ろから鈍器で頭を殴られる。


「っ!はぁ!」

「マジかよっ──!?」


 殴って油断したところを木刀で殴り返し、絞め技をかけて気絶させる。


「はぁ──はぁ──」

「オウカ!下がれ!」

「っ!でも──」

「いい!」

「っ……はい!」

「そうはさせないぜ?起動!」

「くっ──な、にが──?」


 一ヶ月前、お頭と呼ばれていた男が不気味な魔道具を起動するのと同時に龍城さんは膝をつく。


「ハ、ハハッ!ハハハハ!」


 男の笑い声が響くのと同時に、また視界がノイズに包まれる。



 ここからまた少し、時間が飛ぶ。


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