7-34 とある亜人の平和な記憶4
「ん……あ!ダイアお兄ちゃん!おはよ〜!」
「おう、おはよう」
龍城さんはダイアさんに案内され、テントのような住居が円状に並ぶ広場に連れてこられる。
その広場には小学校低学年ほどの、まだ身長が百センチあるかどうかも怪しい子供から中学生ほどの子まで居て、合計で七人の子供が居た。
ただ全員に共通して動物の特徴を体に持っていた。
ダイアさんのように全身が毛に覆われているもの、爪や牙、耳に尻尾など部分的な特徴を持っているものもいれば、鼻や瞳孔など、よく見ないとわからないような子供もいる。
そんな中の、比較的わかりやすい特徴を持った、耳と牙が生えた七歳ほどの女の子が近づいてくる。
「おはよー!ダイアお兄ちゃんその子は?」
「昨日ヒトから逃げ出してきたのを拾った。仲良くしてやれ」
「はーい!」
「よし、それじゃメシの準備からだ。一人増えたからその分多く作らねぇとな」
「はーい!……でももうそんなにご飯ないよ?」
「一昨日取ってきた木の実と罠にかかってた猪があるだろ」
「でも昨日で半分以上食べちゃったよ?」
「足りなきゃ獲ってくればいいんだから気にせず食え。んじゃ、俺は罠の確認と軽く食いもん探してくるからな。メシは自分たちで作れ」
「はーい!行こっ?」
「は、はい……」
女の子に連れられるまま集団の中心に連れて行かれ、年齢も外見もバラバラな子供達に囲まれる。
「私グルカ!あなたは?」
「わ、私は龍城桜華といいます」
「タツキオウカ?長い名前だね」
「桜華で構いませんよ」
「わかった!じゃあオウカちゃん、よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
「なあなあ!俺は──」
その場の全員と自己紹介を交わし、それから朝食の準備に取り掛かる。
龍城さんがこれまで住んでいた日本とは、調理器具も食材も保管状態も何もかも劣悪ではあったが、これまで生き抜いてきた子供達の知恵と経験に助けられながらなんとか人数分の食事を作り終える。
「おう、もう馴染んでんじゃねぇか」
「みんな元気でいい子ばっかりですね」
「ああ。良くも悪くも純真無垢なやつしかいねぇからな」
「……それは一体──」
「ダイアお兄ちゃーん!あーそーぼー!」
「後でな!こっちの話が終わったらすぐ行く!」
「はーい!待ってるねー!」
「……すまん、話が逸れたな」
「いえ、仕方ないと思います。……それで、さっきのは……」
「この集落にいるのはな、親がいないか、はぐれたやつか、死に別れたやつばっかりなんだ」
「っ……それは……」
「ヒト族との争いの結果だ。昔な、一回大きな衝突があったんだ。幸い、それは両派閥の穏健派によって不完全燃焼みたいな形で止められた。ま、実際は亜人側が死にすぎて自然消滅したみたいなもんだったんだけどな。……その結果、大きなしこりを残しただけじゃなく、その戦いによって家族や住処を失ったやつも少なくない。というか大半の亜人は家族友人を失い、住処を追われることになった」
「それが……」
「ああ。この集落にいるガキどもだ。長老がそういう子供を見つけ次第引き取ったり拾ったりして、気づけば割と大所帯になっちまった」
……そんなことがあったのか。
私もあまり歴史に興味があったり、特別時間を割いて学んだ訳じゃないけど、そんな話聞いたこともない。
獣人……いや、亜人の大半が死ぬような争いだったなら何か記録が残っててもおかしくない……いや、残ってないとおかしい。
一体どれだけ昔の話なんだろう……
「ねーまだー?」
「おっと、話しすぎたな。、まあなんだ、そんなわけでちゃんと教育を受けたり、愛情を受けて育ってるやつの方が少ない。だから仲良く遊んでくれる友人が居た方がいいんだ。だから、仲良くしてやってくれ」
「……その程度の事でいいなら、いくらでもします」
「……ああ、よろしく頼む」
「はい」
「……はっ、おかしいなぁ、本当はあって間もないオウカに頼むことじゃないんだけどな。妙に信頼しちまう」
「年齢が近いからかもしれませんね。ここにはダイアさんと近い年齢の方はいらっしゃらないでしょう」
「かもな」
そこで話が一段落つき、一息挟むように二人とも口を閉じる。
「ねぇまだー?」
「おっと、話し込んじまった。すまん、俺この後長老と話があるんだ。相手頼む」
「わかりました」
ダイアさんはラギオンさんのもとへ、龍城さんは子供達の遊び相手になるため、別々の方向に向かって歩き出す。
……平和だ。こんな光景がいつまでも続けばいいなと、思う自分がいる。
……でも、そうはいかないのを、記憶を読んだ私は知っている。
……これからまた少し、時間は進む。