7-32 とある獣人/亜人の記憶2
「またね〜」
「さようなら」
またあの道場に向かって歩き出すため、振り返ったその瞬間、写真が切り替わったように視界が切り替わる。
目に見えるのは、薄暗く、生臭い臭いに満ち、恐怖と怨嗟が渦巻く、子供が鎖で繋がれた光景。
「どこ……ここ……それにこれ……体が……」
……私と同じ状態だ。体が透けてる、おそらく魂だけの状態だ。
アルが言ってた。四人喚ぶことができたけど、場所を指定できたのは一人だけだった。
だから場所を指定されなかった龍城さんは転移先の肉体を用意されることもなく、ランダムな場所に転移してしまった。
それで肉体を得ることもなく、魂だけの状態……ってことかな。
大方私と同じだけど……このままだと確か──
「っ!体が──!」
やっぱりだ。私と同じように魂だけの状態だといずれ体が更に薄くなっていく。
順当に考えるなら……消滅するかもしれない。
けど今龍城さんが獣人の肉体を持っているということはどこかで肉体を譲り受けるってことだ。
しばらく見てみよう。
「っ……誰か!そうだ君!どういう状況が教えてくれませんか!?……聞こえてない?」
聞こえてないのを確認した後、状況を把握するためか、助けを得るためか、走り出す。
「誰か!誰かっ!」
「……れか」
「っ!聞こえていますか!?」
「……誰か、いるの?」
「君……!」
「誰かは知らないけど……もう、疲れたな……」
「っ!な、にが……!」
視界が数秒暗転し、また映し出される。
「何が……っ!これ……!」
龍城さんの手はもう透明じゃなかった。ボロボロではあるけどちゃんと肉と骨で構成された、ついさっきまで会話してた少女の肉体だった。
「──っし、んじゃあ今日もやりますか」
「……誰?」
「あん?今日は起きてんのか。まあ何でもいい。連れてくぞ」
「ちょっと待ってください!ここ──んぐっ──!」
「なんかわめいてっけどいっか。手錠外せ」
「へいへい」
口を塞がれ、引きずられるようにどこかへ連れて行かれる。
「お頭、準備できましたぜ」
「おう。んじゃ、早速やれ」
「っ──!ん──!」
「さっきから何わめいてんだこいつ」
「ほっとけ。観客の前で黙っときゃ何でもいいんだよ。黙んねぇんだったらいつも通り鞭でも打ってやればいい」
「それもそっすね。ほら!歩け!」
「──!」
突き飛ばされるようにステージらしき場所に立たされ、観客らしき人達に囲まれる。
……見世物小屋と形容するのが一番近いのかな。
何にせよ悪趣味だ。推察するに、獣人を使って遊んでるんだろう。本当に趣味が悪い。
「──っ!やっと外れた!ここはどこなんですか!?」
「おい、なんか騒いでるぞ。黙らせろ」
「へいへい。そらよっと!」
男が鞭を振りかざす──が、それを躱し逆に鞭を奪い取る。
「はぁっ!?」
「くっ──言葉も通じなければ攻撃してくるなんて……逃げるしか無いか」
言葉が通じない?
……そうか、私はアルに《言語接続》をかけてもらったから現地人の言葉も、龍城さんの言葉も分かるけど、龍城さんと現地人の間では喋ってる言葉が違うんだ。
……けどまあ、多分言葉が通じても結果は変わらなかったような気がするけど。
そのまま龍城さんは奪った鞭を武器に飛び出し、逃げ出していく。
「はぁ──はぁ──くっ──動きづらい……!」
多分急に肉体が変化したからだろうな。
もともと龍城さんは身長百七十センチはあったけど今は百五十センチもない。
それに多分ちゃんとした食事も摂ってないであろうボロボロで痩せこけた体じゃ動きづらくて当たり前だ。
「っ──気合い入れろ……っ!」
震える足に拳を叩きつけ、一歩でも遠くへと走っていく。
……気づいてないんだろうな。今魔術を使ってたな……
多分さっき見た体を変化させる魔術だ。
無意識に使えるってことは先天属性……効果を見る限り血属性?
面白いな……余裕があれば後で聞いてみるか。
「はぁ──はぁ──っ!?誰!」
建物から飛び出し、森を走っていると、急に茂みから男が出てきた。
「お前……来て正解だったな。ついてこい」
「な、何を言って……」
「言葉が通じんか。まあ何でもいい」
「ちょ、ちょっと待っ──」
「騒ぐな。見つかるだろ」
「んぐっ──」
耳が生え、狼のような毛で体が覆われた男に担がれ、また口を塞がれて連れ去られるように場面が切り替わる。
ここから少し、時間が進む。