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7-30 偽りの姿

「おう、来たか」

「すいません、こんな時間に」

「気にすんな。転移者案件なんざ今は俺以外に対応できるやついねぇだろうからな。それで、何があった?」

「はい、まず──」


 迷宮を二十層まで攻略したこと、そこで十層と同じように転移者が召喚されたこと、この二つをメインにカイさんに伝えていく。


「はぁ……なんというか、おまえら見てると九層で何年も詰まっってたのが馬鹿らしくなるな」

「それは……九層と十九層にあった台座のギミックは多分私にしか動かせない仕組みだったので仕方ないと思います」

「それでも、だよ。……さて、問題はそこのお嬢さんだ」

「申し遅れました、龍城桜華です」

「おっと、こっちもまだ名乗ってなかったな。カイ・ヴァルスだ。よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします」


 二人は名乗りと握手を交わし、友好的な態度を示した。


「さて……タツキさんの対応について何だが、前例に倣うなら位置情報を発信する魔道具の着用に加え、監視員がついた生活になる。ま、監視員って言ってもそこの四人になると思うけどな。この条件、飲めるか?」

「構いません」

「すまんな。転移者がどういう人間なのか、どういう知識を持ってるのか、それが俺達にとって害にならないか、そういうリスクを考えるとどうしてもこういう対応になっちまう」

「仕方ないでしょう。組織の長として、適切な対応だと思います」

「組織の長、ねぇ……」

「?」

「カイさん、つい十数日前にギルド長になったばっかりなんです」

「おい言うなって……すまんな、こんな新人が取り仕切ってるなんて不安だろ」

「いえ、そんなことないです。むしろ就任してからその短時間でその立ち振舞ができるのは凄いと思いますよ」

「そうか……」


 むしろこれから自分の命や立場がかかった対応を新人に仕切られてその対応でき龍城さんが凄いと思う。

 私だったら嫌だもん。


「──っと、流石にこれ以上は明日に回した方がいいか。部屋を用意するのでそっちで休んでくれ。あ、ギルド内の施設は自由に使ってくれ。活動資金はこっちで用意する。案内は頼むぞ」

「わかりました」

「それと、これが身分証になる。見えるところにつけておいてくれ」


 そういうと 机の引き出しから黒色の徽章を取り出し、GPSの魔道具といっしょに龍城さんに渡す。


 しれっと渡したけどそれ大丈夫なのか……?


「何から何までありがとうございます」

「気にすんな。ギルド『アンブロシア』としてあるべき対応をしただけだ。レイチェル、部屋は前回と同じだ。案内頼むぞ」

「わかりました。行きましょう」

「はい」


 ギルド長室を出て、前回借りた二人部屋に向けて歩いていく。


 アルと一ヶ月過ごした、あの部屋に。




















 荷物を移し終え、龍城さんと私達四人全員揃ったところで話し合いが始まる──と、いうところで……


「そろそろいいかな……少し失礼します」


 一言龍城さんが断り、行動に移す。


 何をするつもりだろう。そう考察しながら少し身構え、龍城さんの行動を見届ける。


「っと、とと」

「……今、何が……」


 龍城さんの姿が一瞬にして変わった。

 今まで接していた健康体で、元気のあふれる姿はなく、少なくとも十キロは体重が減ったであろうやせ細り、元気とはとても言えないような姿に変貌していた。


 いや、それすらも注目すべき場所じゃない。一番注目するべきなのは──


「その耳……」

「すみません、人前では隠すようにしてるんです。尻尾もありますよ。見ますか?」

「いや……いいです。……迫害されてた理由って……」

「考えてるとおりです。転移した肉体が亜人……いえ、皆さん風にいうなら獣人だったからです」


 ……迫害されてたって発言に合点がいった。そりゃ迫害されるよ……


「これで準備はできました。何から話しますか?」


 もう言うことはないと言わんばかりに獣人の姿の話を切り上げ、次の話題に入ろうとする。


 ……正直まだ納得言ってないところはあるけどそれは後で聞けばいい。まだ一つの話題にこだわる場面じゃないだろう。


「……話すのもいいんですけど、記憶を直接見ても構いませんか?」

「記憶を、ですか?」

「はい。アルの魔術です。そっちのほうがより互いを知れると思います」


 一つ一つ話をするより、アルから教えてもらった方法で直接記録として診るほうが早い。

 特にこんな夜遅くなら効率よく時間を使って方がいいはずだ。


「いいですよ。姿を偽っていたことを含めても、人に恥じるような生き方はしてません。どうぞ見てください」


 ……凄いな。自分の生き方、成したことがいくら高潔なものであったとしても私はこんなに自身を持って他人に見せることはできないと思う。ましてや迫害される立場にいたと言うならなおさらだ。

 だから断られても仕方ないと思ってたんだけど……やっていいと言うなら見せてもらおう。


「《血霧(ブラッドミスト)》」


 私の血の霧をなんの抵抗もなく吸い込み、侵食していく魔力をなんの抵抗もなく受け入れていく。


 龍城さんの体の中で、魔術の使用に耐えるだけの土台を作ったあと、アルに教わった方法で記憶の海を覗いていく。



 英雄的で、残虐で、壮絶としか言いあらわせない、過去を。

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