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2-15 破格の買い物

 ……や、やっと解放された。


 あれから小一時間、ミシェルの趣味の着せ替え人形にされた。


 説得に説得、妥協に妥協を重ねさせ、最終的には白のワンピースとシンプルなYシャツ、チェック柄のスカートを購入することになった。


 ちなみに同時進行でマルクとヒナも着せ替え人形になってた。この1時間、試着スペースを私達で独占していた。


 合計の値段はなんかとんでもない値段だったように見えたがノータイムで払った時はこっちが驚いた。


 あれか?趣味には金遣い荒い人か?それとも休日人格変わるの?

 この世界の教師は待遇も良いらしいし性格に拍車を掛けているんだろう。


 別に個人の趣味を止めるつもりはない、実現するだけのお金があるなら結構。

 ただ、ただな、自分の生徒にやるなという話だ。


 時間を確認すると十時を回ったところだった。

 さて、予定だと紙を買いに行きたいという話だった。

 聞いてみるか。


「先生、もう服はいいですよね?」

「え?次の店に」

「いいですよね?」


 良くない言葉が出て来ようとしたので無詠唱で冷気を放ち、威嚇する。

 背筋が冷えるどころの話ではない。物理的に凍らせてやる。


「手紙用の紙を買いに行く予定でしたね?そろそろ移動しませんか?」

「は、はい」


 よし、説得成功だな。


「ありがとうございました」


 服屋から出て、ミシェル先導のもと目的地に向かう。

 怪しげな言動があったら背筋を凍らせながら。


 向かうのは文房具屋──この世界ではペンや紙は最先端の技術を以て作られるものなのでとても敷居が高いところだ。


 そういう事も相まって到着した店の外見はとても厳かなものだった。


「着きました。ここがこの街で数少ない文房具を扱う店です。ちなみに、ここの店主は子供好きな人ですよ」


 わたしの魔術とは別の寒気が走る。

 ついさっき子供好きの大人にひどい目に会わされたばかりだ。

 何事もないことを祈ろう。


「......いらっしゃい」


 いかにもな強面のおじさんが出てきた。

 まだ何も話してないのに威圧感が凄い。


「......何を買いに来た?」

「...家族に手紙を送るための紙と封筒を買いに来ました」

「......ふむ」


 返事に挙動、自分の全てを値踏みするかのような視線で見つめてくる。

 ほんと怖いからやめて欲しい。


「ちょっと待ってろ」


 言い残して見世の奥に引っ込んでしまった。


 この妙な緊張感の中に置いていかないで欲しい。

 隣を見るとマルクとヒナも固まっていた。

 私だって怖いんだ。仕方ない。



「皆さん、別に怖がる必要はありませんよ?あの人はただの子供好きな気さくな人です」


 気さく?そうは見えない様相だったが......


「あったぞ、これなんかどうだ」


 店主が持ってきたのは何十枚もの紙と封筒が束になって入っている鞄型のレターセットだ。

 きっちり人数分、三セット用意されている。


「料金は一箱銀50だ」


 なっ!?

 このセットで銀50!?破格もいいところだぞ!?

 この紙の枚数、封筒までセット、その上質の良いペンに蝋までセットなら金5枚は下らない。


「どうした?買わないのか?」

「……本当に銀50でいいんですか?」

「ああ」

「……分かりました。買います」


 もらったお小遣いから銀を50取り出し店主に手渡す。


「ほれ、もってけ」


 マジか、本当に買えたぞ。


「ほれ、そっちの二人は買わないのか?」

「……買います」

「買う!」


 二人共それぞれお小遣いから料金を手渡し、それと引き換えに破格の品質のレターセットを手に入れる。


「まいどあり、それじゃあな」

「3人は外で待ってて、まだ先生は見たいものがあるから」

「分かりました」


 ミシェルに言われた通り店の外で待つ。

 ミシェルは多分気になる商品でもあったんだろう。





「本当にあの値段で良かったの?」

「ああ、もう売ったものだ。気にはしねぇよ。それに後悔もしてない」

「あれ、一セット金10はするでしょ、それを銀50で売るなんて」

「はいはい、良いんだっていってんだろ。それに、お前さんが連れてきたってことはお前ンとこの生徒だろ?

 あの年で親元離れて勉学に勤しむなんざ並大抵の人間にはできねぇ。……少しくらい気休めになればと思ったんだよ」

「はぁ……あなたの子供好きにも呆れたものね」

「お前が言うか」

「お互い様。まあ、ありがたく受け取っておくわ」

「おう、ちゃんと面倒見てやれよ」

「分かってる。それが私の仕事で、役目だからね。

 ちゃんと責任持って最後まで見届けるわよ。それじゃあまたね」

「おう、また贔屓にしてくれよ」






「お待たせ。ごめんね、ちょっと話が長引いちゃって」


 店の外で待たされてしばらくするとミシェルが出てきた。


 ぱっと見何か買ったようには見えないがあまり大きくないしそのままカバンに仕舞ったのだろう。


「先生、このあとはどうするんですか?」


 マルクが切り出す。

 一応今日やりたかった予定は一通り終わったので予定がどうなっているのか確認したいのかもしれない。


「このあとはご飯を食べに行くわ。行きつけのところがあるの」

「ご飯なら学院に戻れば食堂で食べれますよ?

 それに今日結構お金使ったから足りるか分かりません」


 とりあえず疑問と心配をぶつけてみる。

 聞かずに行動してお金足りませんでしたは避けたい。


「う〜ん、食堂に戻ってもいいんだけど、あと一箇所だけみんなで行きたいところがあるから今日は外で食べましょうか。

 先生の奢りだから心配せず、たくさん食べてね。」


 奢りはありがたいけど……行きたいところ?

 背筋に寒気が走る。



 服屋はもう勘弁してくれよ?

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