7-29 帰路
「……凄かったね」
「ああ……」
「ほんとはあの剣とんでもない業物なんじゃない?」
「俺ちょっと師事してくる」
あれから数時間後、無事どころか無傷かつ物資を温存して地上まで帰ってきた。今までの私達じゃありえない成果だ。
「皆さんお疲れ様です。足手まといにはならなかったみたいでよかったです」
「いや……逆にこっちが置いていかれるレベルだったんですけど……」
この余裕を持て余して帰還という成果を挙げた要因の九割は龍城さんのおかげだ。
この人、ほんとにあのナマクラで戦ってるのか疑いたくなるほどスパスパ斬り捨てちゃうんだもん。
サンドワームが一瞬でバラバラになってたし、それだけの実力があって自分主体の立ち回りじゃなくてこっちの戦略に合わせてくれるし。
もうこの人一人だけでいいんじゃないかと思うくらいには今まで役割分担してきたのがバカバカしく思えるくらいには圧倒的だった。
「いえ、皆さんの知識と実力が無ければここまで楽には行かなかったと思いますよ?」
「はは……だと良いですね……」
ここで楽にいかなかった、と言うあたり多分自力で迷宮二十層分を踏破できるって実力と自信があるんだろうな……
「それにしても夜だったんですね……」
「どうしても迷宮探索には時間がかかりますからね。でも宿の心配はしなくて大丈夫だと思いますよ。ギルドで部屋を借りれると思いますので。食事もギルドで摂れます」
「それは凄い助かります。この時間から宿を探すのは難しそうだなと思ってたので」
緊張をほぐすためか、単なる優しさかマルクが衣食住について説明する。
まあ確かに今から宿を探すのは難しいだろうな……もう日付変わってるし。
「あ、レイチェルちゃん、カイさんに連絡しないでいいの?」
「あ、確かに」
夜遅くに連絡するのはだいぶ迷惑な気もするけど案件が案件だしアポ取るくらいはしたほうがいいかな。
「ちょっと待ってね……よし」
「電話……ですか?」
「ん〜……まあ、はい。同じようなものです」
現代日本の携帯電話と比べると比べるのも烏滸がましいくらい最低限の機能しかないけど、まあ電話といっても差し支えないかな。
「そんなもの作られてたんですね……本当に私がいた時代とは違う時代なんですね……」
「ですね……元号も変わってるらしいですよ」
「そうなんですね……よければ色々教えてくれませんか?あ、後ででいいので……」
「いいですよ。というかこっちも色々知りたいことばっかりなのでぜひ時間を作って話し合いましょう」
まだ分からない事だらけなんだ。引き出せる情報があるならいくらでも話そう。
「あ、でも昔のことあんまり覚えてなくて……」
「多分魔術で昔のことを思い出せないよう妨害されてるんだと思います。アルもそうだったので」
「アル……アルカディアのことですか?」
「知ってるんですか?」
「はい……でもどこで会ったのか、何をしたのか、何も覚えてないんです」
「それも後から思い出していきましょう」
アルのこと知ってるのか……
転移者の情報を頼りに旅をしていった……みたいなことも言ってたし、やっぱりまとまって行動してたんだろうな。
「レイ、脱線してるぞ」
「あ、ごめん。え〜っと、よし」
マルクに諌められ、改めてカイさんに連絡する。
手元の通声機からコール音が響き、三回ほど鳴った後──
『……こんな時間に何だ?』
「夜遅くにすいません、二人目の転移者です」
『っ!』
カイさんにはアルの騒動の時に転移者うんぬんは説明してある。
それにアルの一件の当事者でもあるし、この一言だけで事の重大さが伝わるはずだ。
『……わかった。今からギルド長室に来い。話はその後だ』
「わかりました。それではまた後で」
詳しい話はギルドに戻ってからするらしい。
まああんまり人に聞かれたくない内容だし、時間も時間だからそっちのほうが良いかな。
「……というわけで、龍城さんの対応は一旦ギルドに戻ってからになります」
「わかりました」
「……多分、前例があるのでおかしな対応にはならないと思います」
「……ふふ、ありがとうございます」
「……なんで、笑うんですか?」
「いえ、元は迫害される身でしたので」
「それは……」
「構いません。もう隠すようなことでもないですしね。その話も後で話します」
迫害……何があったんだろう。
ここ最近の歴史じゃ迫害や差別といった話はあまり聞かない。それこそ獣人くらいじゃないか?
それも数百年くらい前に表舞台から姿を消したってことくらいしかわからないし、それより前から獣人自体は居たはずだ。
……ほんと何年前から来たんだ。
そんな考察をしながら、夜闇に埋もれたラタトスクの街を歩いていく。