7-28 二人目の転移者
「はぁ……流石に疲れたね……」
「ああ……でも、なんとかここまでこれたな」
より厳しい暑さとなった十九層の最後、九層にもあった例の台座までなんとかたどり着いた。
「またこれか」
「これがあるってことは、やっぱり私にしか開けられないのかな」
「ああ……前言ってたな。他の世界から直接来た人間にしか開けられない……みたいな」
「まあ、大体合ってるかな」
推測が正しければ、先天属性を二つ持ち、他の世界での名前を覚えてることが条件だ。
……まあ、どう考えても私に開けろって言ってるようなものだよね。
というか元をたどれば私をこの世界に喚んだのも誰かわからないしめちゃくちゃ作為的な仕組みなんだよな……
でも私達には迷宮を壊せない以上この仕組みに従って開けるしかない。
「はぁ……」
ため息をつきながら、台座に書かれた文字を読む。
『遠い異界の地より来たりし同郷の者よ、この迷宮の果てを目指す探究者よ、己の中に秘めし深淵へ踏み込まんとするならば台座に触れ、己の名を念じろ。さすれば道は開かれん』
ここの文言は前回と変わらないか。
なら手法も前回と同じでいいかな。
石版に触れ、前世の自分の名前を念じる。
すると周囲の地面に赤と水色の二色の魔法陣が浮かび上がり、砂の大地を裂くように無機質な階段が現れる。
「……行こう」
階段を下り、迷宮第二十層の地面を踏む。
「あれって──」
十層の時と同じように、魔石が浮いている。
十層の時と同じものだとしたら──
「っ──!」
同じだ。
迷宮から魔力が溢れ、魔石にまとわりつくように固まり、一人の女性を形作る。
「──ん、ここは……」
「マルク、十層と同じっぽい」
「ああ」
「──申し訳ないですが、ここがどこかご存知でしょうか」
「……はい。ここは迷宮第二十層、大陸最北端の都市アンブロシアの地下深くです」
「迷宮……聞き覚えがあるような……」
袴を着た女性は現状を聞き、考え込んでしまう。
まあアルと同じパターンだとすると何も知らないんだろう。
身長は百七十センチほど……平均より大きいくらいか。武器は持ってない……けどアルと同じように強力な魔力反応が懐にある。聖遺物を持たされているんだろう。
私達が女性を観察していると何かに思い当たったように俯いていた顔を上げ、言葉を紡ぐ。
「すいません、まだ名乗ってませんでしたね。私は龍城桜華、異なる世界から来た転移者です」
「っ!」
転移者!アルが言ってた四人の転移者のうちの二人目!
「……何か驚かせてしまったようですが……」
「あ、ああ……すいません、私はレイチェル、あなたと同じ転移……いや、厳密には少し違いますけど同じような状況の者です」
「転移者……!それは心強い。では……」
「なあ、そろそろいいか?」
「ベイン……?」
素性を説明し、状況を把握してもらう為に話していたところに、なぜかベインが割って入ってくる。
「あんた、タツキオウカと名乗ったな?」
「……?はい、そう名乗りましたが……」
「偽名じゃないな?」
「はい。わざわざ名前を偽る必要は無いでしょう」
「なら、うちの剣術道場……タツキ流剣術について知ってるな?」
そういえばベインの流派ってタツキ流とかって言ってたような……
「はい。そういえばまだ言ってませんでしたね。しがない道場ですが師範をしています」
「しがない……!?ふざけ──」
「ベイン、落ち着け。アルと同じなら違う時代から来てる可能性がある。タツキさんが思ってる剣術道場とは違う可能性がある」
「っ──ああ、そういえばそうだったな……すまん、取り乱した」
「あの……何か気に障るような事を言ってしまったようですが……」
「いえ、少し話が食い違ってたようです。こちらこそ、仲間が失礼しました」
キレかけたベインをマルクななだめる。
自分の流派をしがない、なんて言われたら怒るのも無理はないだろう。
でもそれはそれとして失礼を働いたのも事実だ。後でちょっと説教しないとな。
「とりあえず、地上に戻りましょう。上はちょっと危ないので俺達で守りながら進みます」
「危ないんですか?」
「はい、魔物が居ますので。あ、砂漠とジャングルを進むことになるのでこちらの薬を……」
「何か武器になるものはありますか?」
「武器、ですか。……その懐に仕舞ってる物では駄目なんですか?」
「これですか?」
龍城は懐から水晶のような物でできたドクロを取り出す。
「これは使い方が分からなくて……」
「レイ」
「うん。『ステータス』」
『ステータス』を使ってドクロの情報を読み取る。
──不定形の水晶
属性 地 使用者が魔力を流すことによって形状を変えられる。質量、硬度、体積も使用者の意思で変更可能。使用者、貸与者の意思によって暴走可能。
……これは他の人が持っても暴走しないのか。いや、貸与者の意思で暴走させられるあたり主導権はまだ黒幕が握ってるか。
「あの……」
「そのドクロは魔力を流す事で形を変えられるらしいです。硬さも、素材も、大きさも含まれるらしいです」
「そう、なんですか?」
「試してみたらどうですか?」
「そうですね……あんまり魔力うんぬんは得意じゃないんだけどな……ふっ!」
龍城さんが魔力を込めるとドクロの形はたちまち崩れ、一本の刀の形に変化する。
それは素人が見ても分かるくらい荒削りで、ナマクラと言っても差し支えないような、不格好な刀だった。
「うーん……まあこれでなんとかなるかな。すいません、お待たせしました」
「護身用の武器ですね。では上に──」
「いえ、私も戦いますよ?」
「はい?」
マルクが思わず聞き返した。
うん、私も同じ事思ったもん。この人急に何言ってるの。
「あの……」
「流石に剣術道場の師範が守られっぱなしとか情けないので。邪魔なようでしたら言ってください。大人しく下がりますので」
「いや……戦うのは構わないんですけど……大丈夫ですか?まだここに来たばっかりで色々混乱してると思いますし……無理だと思ったら早めに言ってくださいね?」
「はい。流石に皆さんに迷惑かけたまま死ぬほど無様を晒すつもりはないので」
「そ、そうですか……じゃあ、お願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
恭しく一礼し、階段を登る。
本当に大丈夫なんだろうか……