7-24 報告会2
「で、どうする?進んでみるか?」
「……いや、ここらへんで引き返そう。十五層が砂漠って分かっただけでもう十分だよ」
「そうか。ならさっさと帰ろう。暑い」
「もう一本飲んどく?」
「そうするわ」
追加で毒……冷却薬を飲んで地上を目指して引き返す。
にしても砂漠か……足場は悪いし地中からの奇襲も警戒しなきゃいけない。周囲一帯なにもないかと思えば蜃気楼か何かで遠くは見えないと来た。
警戒と視界については私達には効かないけど、もし他のチームが探索に来て遭難でもしたら大変だ。足場も悪いし下手したら帰り道もわからなくなるかもしれない。
一回カイさんに相談しないとな……
まあとりあえず十五層の特徴と、今の私達でもなんとか進めそうということが分かったなら今回はそれで十分だ。
あとは、生きて帰るだけでいい。
砂の海の情報を手に、冷却薬の効果があるうちに片道数時間の道のりを引き返す。
「砂漠、か……」
「かなり砂が細かく、足が簡単に埋まりました」
「そりゃ戦いづらそうだな」
「マルクの手助けがなければもっと苦戦したと思います」
「そうか……魔物はどんな感じだった?」
「こんな感じでした。《偽倣魔術・幻想投影》」
アルから習った魔術を使い、記憶の中のサンドワームの姿を現実世界に投影する。
「……デカいな」
「五層で戦ったフロアボス並にデカいです」
流石にこの部屋には入り切らなかったので十分の一縮尺で投影し、比較対象として横に私達を置いてサイズを想像してもらった。
「これがかなりのスピードで動いて地中から奇襲しかけてくるんだろ?戦いたくねぇな……」
「正直かなり厄介です。倒せないことはないですけど、この体の大きさとスピードで砂漠ってフィールドの恩恵を受けてるこいつと戦いながら進むのはかなりキツイです」
「こいつに加えて蜃気楼と不安定な足場だろ?こりゃ最上位の冒険者でも苦戦するぞ……」
今回私達は足場の問題と奇襲という不安要素を魔術で打ち消した状態で戦ったから勝てただけだ。
他の魔術師のいない、己の体一つで戦うタイプのパーティーだと正直勝つのはかなり難しいだろうな……
「十五層以降は入場に制限をかけようかな……」
「それって私達は……」
「そりゃもちろん入れるように設定するぞ?」
流石にね、ここで制限かけて入れなくされでもしたら普通に抗議してた。
「というか俺も一回直接見に行かないとな……」
「行ったらいいんじゃないですか?」
「いやな、ギルド長として立場を持っちまったせいで気軽に行けなくなっちまったんだよ」
「死なれたら困るから、ですか?」
「そうだ。今ここで俺が死んだらギルド長の座を継げるのがマルクくらいしか居なくなっちまう。いやまあそのうちマルクがやることになるから別に不都合は無いんだけどな?……でもな、ここでマルクに抜けられるとお前らが困るだろ?」
「それは……はい……十一層以降の探索はマルクの仕事の上で成り立ってるものばっかりです」
「別に俺はレイにもできると思うけどな」
「……マルクは私達のパーティーから抜けたいの?」
「あ、いやそういうわけしゃ……すまん」
ちょっとズルい言い方になるが何かの手違いでもここでギルド長を交代することになっちゃうと探索ができなくなる。
何がなんてもちょっと黙っておいてもらおう。
「まあ、そのうち秘書説得して一回見に行くわ」
「そうしてください。あ、でもこれはあったほうがいいですよ」
そう言い、拡張収納から冷却薬を取り出す。
「なんだそれ」
「体温を下げる毒です」
「ん〜……あ!あったわそんなの。体が冷えると動きが鈍くなるから誰も買わなかったやつ。そうか暑い状況ならそれが使えるのか……よく見つけたな」
「たまたまです。でも結構効果あるので使ってください」
「何から何まですまねぇな」
「色々助けてもらってるので……これくらいじゃ全然お返しにもならないですよ」
「いやむしろやり過ぎでこっちがお返ししたいくらいなんだがなぁ……まあいいか」
「はい。なんでもいいんですよ、そこは」
カイさんが謙遜した結果着地点を見失いかけてるので少し強引に話を終わらせる。
「まあなんだ、とりあえずこれからも頼む」
「はい。なんでも頼ってください。みんなもいいよね?」
「ああ。カイさんからの頼みならなんでもするぞ」
「レイがそうしたいなら俺も手伝うだけだ」
「私もレイチェルちゃんがやるなら手伝うよ!」
あれ、カイさん自体が行動理由になってるのが一人しかいない……まあ信頼を置かれるのは悪い気分じゃないから突っ込まないでおくか。
「じゃあ、まあなんだ、今後も健闘を祈る」
「期待に沿えるよう頑張ります」
カイさんはこのギルドに推薦もしてくれたし、今もギルド単位でサポートしてくれている。
期待に添えるように頑張らないとな。