7-21 暑さとの戦い
「……あっつ」
「流石に、これは……」
「あ〜……」
「はぁ──」
十三層に続く階段の前で座り込み、冷やしたタオルで首と名前のつくところを冷やしながら休憩を取る。
行動不能になるほどではないにしろ、流石にこの暑さの中での一時間以上の探索は堪える。
汗が目に入って見ずらいし、手持ちの水も底が見えてきた。
……まずい。
帰りの戦闘も考えるなら魔力は温存しておきたいから安易に魔術を使ってクーラー代わりになったりはしたくないし、体力的にもここらへんが潮時かもしれない。
「……今日は、ここで引き上げよう」
「……だな」
「……うん」
「……そうしようぜ」
みんな暑さで削れた心身で進むのは危ないと思ってたのか反対意見は出ず、十二層と十三層の狭間で地上へ引き返すこととなった。
「暑さ対策をしよう」
地上に戻り、ギルドに帰ってきて一息ついた後、酒場で会議を始める。
「ああ。あの暑さの中じゃただ水飲んで対策するのも限界がある。水も持ち込める量に限りがあるしな」
「けどベイン、具体的にはどうするんだ?あの毒草だらけの状況で薄着になる訳にもいかないだろ」
「でもあのままゴリ押すのも危険だろ」
「ん〜魔導具で周りの気温を下げたりとかできないの?」
「多分できなくは無いけど生命衰弱域に干渉しそうなんだよねぇ……」
「じゃあ魔術とか魔道具には頼れない?」
「そうなるね……」
結局のところの暑さ対策といってもできることは水を飲む、体をできるだけ冷やす、これくらいなんだよな。
いくら拡張収納があるとはいえ収納できる容量は無限じゃない。
持ち込める水の量にも限界があるから氷にして直接的に冷やすってのもあんまりやりたくないし、魔力だけで氷を作るのは魔力の消費の観点からしてもあんまりやりたくない。
いや一つ作るだけなら消費ってほどの消費じゃないんだけど、それに頼りっきりになると少し危ない気がする。
この先どんな魔物が出てくるか分からないからできるだけ火力に直結する魔力は温存したい。
「ん〜……魔術が使えないとなるとなぁ……」
「結局もっと水を持ち込んで濡らしたタオルとかで冷やしたり、氷を先に作って持ち込んでおく、くらいしか無いんじゃないか?」
「結局そうなるのかな……」
正直水ってかさばるし容量食うからあんまり持ち込みたくないんだよな……
他にも魔術薬とか食料も入れとかないといけないし正直あんまりやりたくない手ではある。
でも今のところこれ以外やれること思いついてないしやるしか無いかな……
「じゃあこの後水汲んでくるよ」
「俺も手伝う」
「ありがとう……それじゃとりあえず会計しよっか」
席を立ち、手早く会計を済ませてギルドの備え付けの井戸に向かう。
「よい……しょっと……次の樽くれ」
「はい。じゃあこっちもう仕舞っちゃうね」
「ああ」
樽に水を汲み、拡張収納に詰めていく。
ほんと重力系の魔術を使えるのが上位魔術師組にいて良かった……
「よ……っと。これで終わりか?」
「うん。手持ちの容器はこれしかないからとりあえずここまでで」
「わかった。この後はどうする?」
「ん〜……魔術薬の買い足しに行こうかな」
「そっちも付き合おうか?」
「いや、こっちはサクッと終わるから一人で大丈夫だよ」
「そうか。なら俺は先に部屋に戻る」
「うん。ありがとうね」
「気にするな。それじゃ、また明日」
「また明日」
マルクと別れ、売店に向かう。
もう夜遅くということもあって店員さん以外に人の姿は無く、小さな灯りしか光源のない売店はほぼ真っ暗だ。
そんな中一人買い物に来た私は店員さんの視線を受けながら商品を物色していく。
「ん……あった……けどもう一段階いいグレードの魔術薬に変えてもいいな……いや今のでも十分間に合ってるし……まあいくつか買っとこうかな」
魔術薬を籠に放り込みつつ、他の商品も物色していく。
「……ん?これって……」
そんな中、あるコーナーの商品が目に留まる。
「毒?」
そういえばあったなこんなの。大体の効果は魔術で代替できるから使う機会はなかったけど……
「……あ」
これなら、もしかしたら使えるものがあるかもしれない。
「……あった」
体温を下げる毒だ。これならあの暑さの中でも多少楽になるかもしれない。
そう考え、あるだけ全部籠に放り込む。
「すいません、これください」
「はいはい……ってほんとにこれ全部?」
「はい。……もしかして迷惑でしたか?」
「いや?全然売れない毒だったから構わないんだけど……物好きね」
「近々使う予定がありまして」
「そう。ちゃんと使えるといいわね。……はい、会計」
「え〜っと……どうぞ」
「ピッタリね。ありがとうごさいました」
「ありがとうございました」
買った商品を拡張収納に詰め、自分の部屋に帰る。
思いがけない収穫を手に、暗い廊下を歩いていく。




