2-14 初めての遊行
「ん…」
至っていつも通りの時間に目が覚める。
こういった時でも影響を受けないくらい習慣になっている。
この時間は誰も起きてないし出かける準備しとこうかな。
とりあえず顔洗って着替えるか。
「おはよう」
「!?……おはよう……」
顔を洗うため洗面所に行くと既に着替えを済ませたヒナが居た。
いつもは起こされてようやく起きるのに私より早く自力で起きているということが信じられない。
「今日……なんか早起きだね……?」
「うん!楽しみで寝れなかったの!」
なるほど、遠足前日の小学生と同じ理屈か。
まあ早起きしたことは起こす手間が無くなったし別にいいか。
「おはよ!?……う?」
「ああおはようマルク」
「おはよう!」
マルクも同じリアクションだ。やっぱそうなるよね。
全員準備と朝食を済ませ食堂にいた。
結構長く出かける予定なのでそれぞれ結構がっつり食べていた。
今この時点でまだ八時くらいだ。
今日は授業もないのでだいぶゆっくりできる。
「集合は九時の予定だったけどもう全員準備できてるみたいだしもうすぐに出発しませんか?」
「うん!すぐ行こう!」
ミシェルが提案してヒナが賛成する。
ヒナが外出の提案者の私より興奮してる。
やっぱりまだまだ子供なんだろうな。
「どうする?マルク」
「まあ、俺は別に構わない。時間を節約できるなら別にそれに越したことはないしな」
「ん〜、じゃあ私もいいかな」
「じゃあ決まりですね」
「行こう!早く行こう!」
「はいはい、分かったから荷物取りに部屋に戻るよ」
「それじゃあ荷物を持ったら校門に集合で」
ミシェルに促され荷物を取りに部屋に戻る。
「ヒナ、走ると危ないよ」
「分かってる!分かってるから!早く!」
「あ、ちょ!危な!」
「痛っ!」
あーあー言ったそばから。
大分派手に転んだな、痛そう。
「大丈夫か?」
「痛ってて……」
「あー、ちょっと擦り剥いてる」
「え〜、ダイジョブダイジョブ、ちょっと痛いけど」
「だめ、動かないで」
折角だし試しておこう。
二年間でマリーから習った治癒魔術、他人に使うのは初めてだけど自分で試したことはある。
この世界に絆創膏なんて便利なものないから治した方が良いだろう。
「レイチェルは治癒魔術使えるのか?」
「うん、ちょっとだけ。でもこれくらいなら治せると思うよ。だからヒナ、魔力膝に行かないようどかしといて」
「分かった…」
みるみるうちに膝から魔力が無くなっていく。
魔術には他人の魔力と反発する性質があるから術をかける側と掛けられる側の協力がいるのだ。
「じゃあ、いくよ。『肉を形作り』『血を流し』『糧として喰らえ』《治癒》」
不慣れなので慎重に、詠唱まで丁寧にして術を掛ける。
使った魔術自体はごくごく簡単な物だ。
だが被術者と反発しないよう丁寧に、慎重に掛ける。
「ふう、とりあえず成功。ちゃんと治ったよ」
「すご〜い!ありがとう!」
初めてだったけどなんとか成功した。
ヒナが抱きついてこようとしたが腕を間に挟み距離を取る。
……なんか悪いしヒナには初めてだったことはいわないでおこう。
「そんなことよりほら、先生待たせるから早く行こう?とりあえず離して」
「そうだな。ただ今度はこけないようにしろよ?」
「は〜い…」
一難あったものの無事四人揃って学校を出発できた。
街までは──主に服屋とかまではそこまで離れていない。だいたい歩いて十分程だ。
あまり大きな声で話すと迷惑になるので静かに歩く。
ヒナはなんかミシェルと話してたけど何を話してたかは聞き流したから知らない。
う〜ん、やっぱり村とは比べ物にならないほど発展してるな。
道はレンガで整えられ、大通りには街灯──恐らく魔道具が数々少ないものの電線のようなもので繋がれ、一定間隔で並んでいた。
夜間でも明るくできる上、恐らく遠隔で魔力を供給できる。
それにガラスの中の魔道具には見覚えがある。
この街に来る途中で止まった宿にもあった。
聞いたところ犯罪行為を確認したら自動で警察──この世界で言う騎士団に通報されるらしい。
この街灯が治安の良さの秘訣だろう。
「着きました。ここが私一番のオススメの服屋です!」
案内してたミシェルが目指していた店に着いた。
かなり大きな店でパッと見でも幅広い服が取り揃えられているのが分かる。
「試着できるので早速服を選びましょう!」
……なんか今日ミシェル妙にテンション高いな。
まあ、商品を見るのは賛成だ。行こう。
入店して最初に見に行ったのはシャツやズボンなどの衣類よりもヘアピンや髪ゴムと言った小物だった。
結構種類多いな。色違いや付いてる飾りの違い、同じような物でもかなり使用感や見た目に違いが出そうだ。
あと、意外だったのが運動用のサポーターがあったことだ。
特に想定してなかったのだがこれから剣術の授業を受ける予定があるのであって損することはないだろう。
これから成長することも見越して幾つかサイズ別で買っておこう。
とりあえずサポーターをサイズ別で肘と膝を3種類3セット、目立たない地味な──髪色が白というか銀髪なので目立たないかは知らないが黒の髪ゴムと黒のヘアピンをいくつか買っておく。
「すみませんこれください」
「はい、え〜と、全部で銀45枚です」
値札を見て計算済みなので正しい値段なのは間違いない。
くっ、結構値がはるな。しかし割と結構必須品だ。
スペアも考えるなら妥協はあんまりしたくない。
諦めて貰ったお小遣いの三分の一程を店員に差し出す。
「え〜と、はい、ちょうど45枚ですね。ありがとうございました」
店員に商品を上袋に詰めてもらい手渡される。
銀45枚の重みを感じながら受け取った。
「あ、いたいた。ちょっとこれ着てみて!」
「え」
会計が終わった瞬間ミシェルが可愛らしいシャツとスカートを──女児服を持ってこっちに来た。
「え、いや今会計終わらせたところで……」
「試着するだけならタダだし服代は先生が出します!出かけるときも制服はちょっと良くないし!だからちょっと着てみて!ね!?」
「え〜……」
大丈夫かこの教師……
ミシェルに気圧され試着室に押し込まれる。
仕方なく着替えたが元男の身としては恥ずかしくて仕方ない。
なにが悲しくて実質二十歳が女児服を着なくてはいけないのだ。
「先生、もうちょっとシンプルな服のほうが……」
「次!これ着てみて!」
「え、いやちょ……」
私は着せ替え人形か何かか?