7-19 報告会
「今日の探索で接敵した魔物は四足型のジャガーみたいな魔物と、二足の恐竜みたいな魔物の二種類で、精霊みたいな特殊能力はありませんでした。強いて言うなら一から九層の魔物と比べると身体能力が高いです」
「ふむ……性質や習性なんかはあったか?例えば仲間を呼ぶとか」
「ジャガーの方はある程度……二、三匹くらい群れて行動する習性はあるみたいですけど、それ以上の仲間を呼ぶ性質はなさそうなので一つの群れだけを相手にして、一匹づつ倒せればそこまで苦戦することはないと思います」
「なるほどな。それで次は恐竜?の方はどうだったんだ?すまんが俺はあんまり昔の生き物は詳しくなくてな……ちょっとイメージがつかないんだが……」
「あー……ちょっと失礼しますね。《偽倣魔術・幻想投影》」
アルから習ったアルの固有魔術の模倣を使い、十一層で見た魔物の記憶を投影する。
「うおっ!?これ魔術なのか!?えらくリアルだな……」
「まだまだですよ。これを教えてくれた人は世界そのものを書き換えてるみたいでしたから。まだ対象を映し出すしかできないうちは全然ダメなんです」
私の《幻想投影》はアルみたいに部屋全体に映し出すような出力は無いし、動かすこともできない。
いや、正確にはできなくはないんだけどめちゃくちゃ疲れる。人や動物の動きって意外と複雑なのだ。
だからまだ物言わぬ像を映し出すのがいいところ。博物館に展示されてるみたいな静止画でいっぱいいっぱいなのだ。
これを教えてくれたアルには申し訳ない話なんだけどね。
「十分凄いと思うけどな……っと、本題に戻ろう。こいつの習性はどんな感じだったんだ?」
「恐竜型の方は基本単独で行動してました。けどその行動を取れるだけの身体能力がありました。パワーも体力もジャガーより数段上でした。けどスピードはそこまでなので真正面からぶつからなければ隙を付いて倒せると思います」
まあ。マルクの岩兵が抑え込んじゃったんだけど。
もとからあったパワーにオリハルコンで質量と耐久性が強化されたからほんと手が付けられない性能になってる。
多分破壊できなくはないんだろうけど一体壊したところで次が作られるだけだし、作る時間と壊す時間が釣り合ってないだろうから戦うだけジリ貧だろうな。
それこそ作るスピードを壊すスピードが上回るのなんて不死鳥を使ったヒナくらいじゃないかな?
「なるほど……でも一番の問題は魔物自身の強さじゃないよな」
「はい。多分探索する上で一番面倒なのは結局毒草になると思います」
「だよなぁ……魔物自体は強くなくても毒を警戒しながら戦わないといけない。厄介なことこの上ない。あ、そういえば魔物は毒で死んだりしないのか?」
「多分毒自体を受けないと思います。探索してる途中で毒の影響を受けてる魔物を見てないですし、多分毒草が刺さらないようにするために皮膚がちょっと硬かったです」
「流石に適応してるか……めんどくせぇ」
まあ地上を歩いて生きている以上当たり前の話ではある。
毒で死ぬなら毒草だらけの地上を歩くことはしないだろうしね。
「となると結局探索するために毒草対策が必要になってくるのか」
「ですね」
「お前が作った魔道具使えたのか?」
「はい。ただ防護膜を張る形になるので近接戦に持ち込み辛いです。あと機能への影響を考えて内側からの攻撃も控えたほうがいいって結論になりました」
「は?それどうやって倒すんだよ」
「操作可能な魔術を先に膜の外に出しておいて、近づけさせないように戦う形になりました」
「は〜よくやるわ。機能は知ってたけどそうやって使うんだな。てっきり半径五メートルの中に近づけて倒すみたいなもんだと思ってたわ」
「量産ができればそれでもいいんですけどね……でもその形にすると今度は仲間に近寄れなくなるので助けに入れなくなったり、結局遠距離攻撃できないので弓使いや魔術師の個性が死ぬんですよね」
「ん〜難しいなぁ。やっぱ着込んで刺されないようにして解毒剤大量に持ち込むのがいいのか?」
「解毒剤を大量に持ち込めるならアリかもですね。解毒剤、作れそうですか?」
「今実物を元に研究してもらってる。完成するのは二から三ヶ月後になりそうだとよ」
「遅いですね」
「だよなぁ……でもまあ明確に目標があるならマシなのも事実なんだよなぁ……」
どんな手段を取るにしても結局デメリットは抱えないといけないわけで、フィールドの条件に振り回されるのは変わらないんだよなぁ……
「っと、色々報告ありがとうな。そろそろ時間も遅いし解散にしよう」
「わかりました。また何かわかったら報告します」
「助かる。それじゃ、またな」
時間も時間なので報告会を打ち切り、部屋を後にする。
ベテランのカイさんと話して改めて思ったけどやっぱりフィールドギミックって面倒くさいなぁ……