7-17 気づき
「ふぅ、とりあえず無事に来れたね」
「壁が無い分流石に早いな」
「ちょっとずるい気もするけどね」
多分本当なら手探りで毒草と戦いながら歩き回るはずだったんだろうけど……異常な索敵能力で最初から最短ルートを突き進むというRTA走者みたいな進み方しちゃってるからなぁ……もし私がこの迷宮の制作者だったらガチギレしてる。
というかこの迷宮誰が作ったんだろ。アルの話じゃ魔王の城だったっぽいけどこれが魔王の城だとは考えにくい。だって自分の家の中に化け物が湧き出てるなんて普通に考えて不便だし、嫌だ。
いくら魔王がどんな存在だったか不明瞭な部分が多いとしても流石に自分の城の中に言葉が通じないような魔物が湧き出てるのを良しとするとは思えない。
そもそも城を建てるなら地上に建てるのが筋だ。
わざんざ地下を掘り下げていくのは非効率的だし、上に積み上げていくほうがよっぽど楽だ。
まだまだわかんないことばっかりだなぁ……
「レイ、どうする?降りてみるか?」
「ん……降りて索敵だけしてみようかな。今日はまだ実験的な意味合いも強いしあんまり無理はしたくない」
「わかった」
次に進むにしてもある程度情報は欲しい。
私達なら無理に進まなくても情報は得られるし、これまでと同じように視るだけ視て後で作戦会議しよう。
そしてその意見に反対する意見は無く、全員で階段を降りる。
「うわぁ……」
視えたのは、《空間把握》を使わなくてもわかるほどの鬱蒼とした森と、ジメジメとした蒸し暑さ。
あっつ……これ普通に熱中症になるぞ……
まだ十二層に入って一分も経ってないのに汗かいてきた。手早く情報集めて引き返そう。
「《空間把握・二重展開》」
魔力を回し、ありとあらゆる情報をかき集めていく。
生息してる魔物は特に変化無し。植生も変化は見受けられない。
罠の類いも見当たらないし……特には十一層と変わってないかな?
ただ一から九層までは下に行くほど魔物が強く、厄介になる傾向があった。そこは注意しないとな。
「……ある程度視えた。引き返そう」
「了解」
ジャングルの中で浮いた雰囲気の石造りの階段を登り、これまで歩いてきた道を引き返していく。
今回の探索で十二層への階段までの方角と距離は大体分かったし、これもカイさんに報告入れておこう。
「……暇だなぁ」
「別に暇でいいじゃん。お金には困ってないんだし」
「いやなんというかな……こうただ蒸し暑い森の中を歩いてるっていうのがなんかな……」
「まあ、気分的には滅入るけど、危険は無いに越したことはないんだよ」
「まあそうなんだけどよ……」
索敵も戦いも私とマルクである程度完結するせいで暇を持て余したベインから苦情が入る。
でも余力を残しておけるならそれに越したことはないし、このスタイルを変えるつもりもない。
申し訳ないけど物語のようなダイナミックな戦闘は少ないほうがいいんだ。諦めてもらうしかない。
でもまあ、せっかく手が余ってるなら有効活用しよう。
「じゃあさ、なんでもいいから気づいたこと話そうよ」
「気づいたことって言ってもなぁ……大体お前なら見えてるだろ?」
「まあそうかも知れないけどさ、見落としもあるかもよ?」
「う〜ん……あ、じゃあよ、気づいたこととは違うかもしれないけど十一層に入った時に違和感はあったぜ」
「へぇ、どんな?」
「明るいんだ、ここ。今まで《暗視》で無理矢理見てたけど、ここは使わなくても見えるくらいには明るい」
「明るい……?」
……普通に気づかなかった。《暗視》はオートで調整できるようにしてるし、私の《空間把握》は明るさは基本関係ないくらい鍛えてる。
……試しに《暗視》外してみるか。
「……おお、ほんとに明るい」
「気づいてなかったのか?」
「うん。オートで調整してたせいで普通に分かんなかった」
「嫌味かコノヤロ」
どういう理屈かはわかんかいけど、明るい。
光源は見当たらないけど、真昼みたいに明るい。
見れば見るほど不思議な光景だ。
「へぇ……不思議だなぁ」
「……だな。太陽もないのに明るいし、植物は育つ。普通に考えればありえない光景なんだろうな。よくわかんないけど」
いいものを見れた。これで植物の栄養が迷宮そのもの、もしくは迷宮から魔力かなんらかのエネルギーを補給され続けてるという裏付けになった。
これで考察の余地が広がった。
こういうのが迷宮の正体のヒントに繋がると信じ、考察しながら帰路を歩いていく。