7-15 次への一歩
暇な時間を持て余した私達が取った行動は、結局鍛錬に使うことだった。
けど学院に居た頃のようなスケジュールにはならなかった。
学院のように蔵書があるわけでもなく、学院の運動場ほどの自由に魔術を撃てる訓練場があるわけでもないからだ。
けどそれ以上にベインが居たのが大きかった。
剣術道場の跡継ぎを目指してると言うだけあって剣に対する理解度と知識が私たちとは段違いだった。
それに古文書のようなものの写しも持ってきてたおかげで出来ることも多かった。
だから私達は持て余した時間をこれまでのように魔術につぎ込むのではなく、剣につぎ込むことにした。
……まあ、剣を教えてくれた教師がいたとは言え結局は魔術メインの学校だ。魔術に合わせるような使い方しか教わってない上、属性も得意な使い方も違う生徒それぞれに合わせて教えるのは難しく、ほとんど自己流だから基礎中の基礎から始まったけど。
それでもまあ楽しかったし、為になった。
いくら経験を積んで、いい武器を揃えても基礎を蔑ろにすれば上手くは行かない。
たまにはこうやって初心に帰ってみるのもいいものだ。
そんな感じで剣を振り、なんだかんだ五日経った頃だった。
「レイチェルさん、手紙が届いてますよ」
「ありがとうございます」
受け付けのお姉さんに引き留められ、私宛に来た手紙を手渡される。
差出人は、ランドラ魔術学院。
先生、お願い聞いてくれたかな……
そんな期待と不安が混ざった感情を胸に、封筒を開ける。
『レイチェルさんへ
頼まれていた《衰弱》の写しが完成しましたので手紙を送ります。
頼られるのは嬉しいですし、こっちも迷宮関連のレポート貰ったりしてますが、少々急すぎます。
まだ初級魔術なのですぐ返信出来ますが、複合魔術の解説なんかは数ヶ月はかかると思っておいてください。
なので何故か二通に分けて頼まれた二通目の魔法陣の解析は時間がかかります。
けど分かってることが一つだけあります。
あの魔法陣を起動して出力される結果は分かりませんけど、刻まれた式の一つ一つの意味はなんとなくわかりました。
本当になんとなくですが、何か不味いことが描かれているように思います。人道や、人権に抵触するような。
なのであまり触れないことをオススメします。
とまあ色々書きましたが、頼れるところは頼ってください。距離的には遠いですが、応援してますので。
冒険活動、頑張ってくださいね。
ランドラ魔術学院 ミシェルより
追伸
あまり危ないことには首を突っ込まないように。かわいい顔に傷がついたら一大事ですからね!』
……うん、あの人らしい締めくくりだな。
にしてもこの短期間でここまで詳しい解説と関連術式の写しまでくれるとは……あの人もしっかりランドラの教師なんだな。
あとは……例の魔法陣、なんかヤバい物っぽいな。一応後で通声機使ってカイさんに連絡入れとくか。
とりあえずこれで毒草対策の魔道具作成に手をつけられる。
これから忙しくなるぞ……
夜通し部屋に籠り、机に向かう覚悟を決めつつ、三人に通声機で連絡を入れつつ、部屋に向かう。
あれから二日、今度は適度に休憩を取りつつ、なんとか毒草対策用の魔道具を完成させた。
名前は生命衰弱域。魔道具を中心に生命力を奪い、衰弱させるエリア……いや、膜を発生させる魔道具だ。
使用者を巻き込まないようにする調整と、あくまでも衰弱に留める制御術式を組み込むのに時間がかかった。不意に誰かを巻き込んで殺しちゃいましたとか洒落にならないからね。
とまあ、なんにせよ完成はした。
あとは実験して効果を確かめて微調整だけなんだけど……いかんせん疲れた。
休憩を取ったとはいえほぼ丸一日分くらいは机に向かってたんだ。頭痛と目の痛みが尋常じゃない。
夕食まではまだ何時間か時間がある。
せめてその数時間だけでも仮眠を取るべきかな……いや、取りたい。
「はぁ〜……」
疲労の果てに限界を突破した睡眠欲を満たすためベッドに横になり、頭痛を紛らわせるように肺の中の空気を全て吐き出す。
仮眠どころか、熟睡の底に意識が落ちるまで、そう時間はかからなかった。