7-13 謎の魔法陣
「ご、ごちそうさまでした〜」
「……?おう」
食べ終え、さっさと会計を済ませて店の外に出る。
「で、さっきはどうしたんだ?なんか隠してたろ」
「え、あ、え〜っとね……」
普通にバレてたか……
「なんか呟いてるのが見えてさ」
「なんて言ってたんだ?」
「なんか『ヤク中』とか『運び屋』とか言ってた」
「それが本当なら明らかに違法薬物の密輸だな」
「どうする?このまま押し入ってみるか?」
「いや、録音して証拠が取れたわけじゃないし、俺たちは騎士団じゃなくて冒険者だ。無理矢理入ったら逆に不法侵入でこっちが捕まる。正式にガサ入れに入るなら依頼を受けてからじゃないと動けない」
「だよねぇ……」
私たちは国営のギルドに所属していてもあくまで冒険者なんだ。法的な権力を持ってるわけじゃない。
「とりあえず報告だけしてカイさんに任せよう」
「やっぱりそれが一番丸いよね」
「というより他にできること多分ないしね……」
「意外と俺たちって権力無いからな、仕方ない」
「だな……」
『アンブロシア』の徽章も、戦魔術師の徽章も、信用されやすくなる、国から信用されてるということを表してるだけで別に法的な効力があるわけじゃない。
私たちは相手から来てくれないと割と無力なんだ。
そんなことを考えつつ、関所で順番待ちをする。
「……ん?」
《空間把握》に既視感のある反応が引っかかる。
ここに来るときも視えた謎の魔力反応だ。それも今回は動いてる。
なんだろ……属性的には闇?いや無属性かな……色々混ざってるみたいで詳しくはわかんないな。
これも後でカイさんに相談してみるか……
「へぇ……実は騎士団の方からも似たような内容で相談を受けてるんだ」
「そうだったんですか?」
「ああ。子供を運び屋に利用する手口が増えてるらしい」
「……そうだったんですね」
「騎士団から要請があればこっちからも戦力として冒険者を何人か送ることになるかもしれん。でもまあ多分お前達を呼ぶことは無いと思うから安心しろ」
「……わかりました。ありがとうございます」
「それじゃ下がれ。あ、でもレイチェルには頼みがあるからちょっと残ってくれ」
「……?わかりました。ごめん、それじゃまた後で」
「ああ、また後で」
「後でね〜」
「またな」
私を残して三人は退室し、無駄に豪華な部屋に私とカイさんだけが残った。
「お前に相談したいことがある」
「何ですか?」
「これを見て欲しい」
そういうと一つの魔法陣が描かれた紙を手渡してくる。
「なんの魔法陣なんですか?」
「それがわからないんだ。密輸役をやらされていた子供の背中に刻まれてたんだ」
「これがですか?」
「ああ。どんな効果があるか分からないか?」
「ちょっと待ってくださいね……」
結構古い形式の魔法陣なんだな……属性は闇?いや光と無属性も混ざってるような……でも目的がわからない。これを使うことで一体どんな効果が……
あとなんとなく東区で感じたあの魔力反応に似てる気がする。
けどそれ以上のことはわからない。
「すいません、光、闇、無属性が混ざってるのは分かるんですけど効果までは……」
「いや、十分だ。俺の方でも調べてみる。騎士団の方から連絡があったらお前達にも連絡するから。何かあったら頼む」
「はい。わかりました」
「すまんな。それじゃ、また」
「はい」
促されるまま部屋を出る。
あの魔法陣、なんだったんだろ……
光と闇は学院で少し齧ってる。
物理的に明るくすることも暗くすることもできるけど、その本質はバフとデバフだ。
光は元からあるものの能力を向上させ、闇はその反対で弱体化させる。
普通に考えるなら何かを強化して、何かを弱体化させる術式なんだろうけど……バフとデバフを同時に掛ける意味がよくわからない。
オーバーパワーになるなら強化の度合いを弱めればいいだけだからその二つの属性が同時に入ってることがよくわからない。
それに無属性も混ざってることがさらに不可解だ。
そもそも無属性は他の属性と比べて少し異質で、主な効果は魔力を単純なエネルギーとして変換することが多い。
魔力を結晶状に固めてバリアにしたり、魔力を放って衝撃を生み出したり、そういう単純な力場として扱うのが無属性らしい。
でもこの光と闇が描かれた魔法陣にどうやって関わってくるのか分かんないんだよな……先生に聞いてみようかな。
先生ならきっともっと深いところまで読み解いてくれるはずだ。
後でもう一通手紙出そうかな……
そんなことを考えながら、三人と合流するためにギルドの廊下を歩いていく。