7-12 ハプニング
「あ、来たよ〜」
「あれ、私が最後?ごめん待たせちゃったね」
「いいよ〜全然。それよりなんか悩んでたみたいだけど……」
どうしようかな……話して変に心配させるのも良くないし適当に嘘ついて誤魔化すかな。
「あ〜ちょっとベージュにするかグレーにするか悩んでて……」
「……?そうだったんだ。結局どっちにしたの?」
「ベージュにしたよ」
「え!?かわいい〜似合ってるよ!」
「ありがとう」
……こう直に褒められるとちょっと照れるな。いやまあそんな大したことじゃないんだけどさ。
「んじゃ、行くか」
「行くって……どこに?」
「どこにと聞かれても困るな……流れ的に飯でも食いに行くのがいいんじゃねぇか?」
「あぁお昼ご飯……確かにね。じゃあ近場でご飯食べれるところ探そうか」
店から出て、四人で入れそうな店を探す。
……なんかあれだな。子供時代を学院の寮で過ごしたせいかなんとなくみんな遊ぶことになれてない気がする。
まあ遊ぶところがないって言ってしまうとその通りなんだけども。
「お、あそこ良さそうじゃねぇか?」
「え〜なんか汚い〜」
「ああいうところって意外と旨いものありそうじゃね?」
「そうか?」
「わかんなくもないけど……」
ベインが見つけたのはいかにもといった風貌の裏路地にある店だ。営業してるのかも怪しいラインだ。
「……まあお金はあるしどこでといいんじゃない?」
「ま、それもそうだな」
「え〜……まあいっか」
「うっし」
別に断る理由も無いのでベインの提案に乗って店に入っていく。
「……らっしゃい」
店に入ってすぐに額に傷のある強面の男性に出迎えられる。
……雰囲気凄いな。
とりあえず適当な席を選んで座り、メニューを見る。
「じゃあ俺はこのセット」
「私はこれで」
「じゃあ私もそれで〜」
「俺はこれにしようかな。すいません」
「……注文は?」
各々食べたいものが決まったところでマルクがさっきの強面の人を呼び、注文を伝えていく。
「……待ってろ」
伝え終わると無愛想に一言告げて厨房に引っ込んでしまう。
「……なんか凄いね」
「だな。場所も相まって雰囲気がある。なんなら裏でヤバいことやってそうじゃねぇか?」
「ヤバいことって……」
「ん〜……奴隷とか?それも獣人の」
「もうそれ都市伝説の類いじゃん」
「でもありそうじゃねぇか?」
「……なんか否定しきれないよね」
この街治安悪いし国の監視が届かないところも無いことはないから絶対に無いとは言い切れない。
でもまあ獣人は無いだろうな……
獣人とは確か数百年前くらい前までは関わりがあったらしいけど差別的な発言や扱いが理由になって戦争になったらしいんだよな……
それで個体数の減少によって実質的に戦いに敗北し、表舞台から姿を消したって言われてる。
古い文献によると名前の通り耳や尻尾とかの獣の特徴を持ってるらし。けどそれを現代社会で隠して生きていくなんて難しいだろうし絶滅したか、絶滅一歩手前まで追い込まれてるだろう、ってのが通説らしい。
あんまり興味ないから獣人関連の本は読んでなかったからこの程度のことしかわかんないけど。
でもまあこの雰囲気だとそんな都市伝説抜きにしてもなんか裏がありそうではある。
……ちょっと覗いてみようかな。
《空間把握》で厨房の中を覗き見る。
見える光景は至って普通の厨房だ。その中に立ってる強面の男を除けばだけど。
……ん、なんか呟いてるな。でも流石に音は拾えないな……聞くことに特化した《空間把握》をもう一枚展開してもいいけど……まあ唇の動きで分かるか。
え〜っと……
『なんで客でもねぇやつに真面目に飯なんざ作らなきゃいけねぇんだ。せっかくなら金落としてくれるヤク中どもが良かったわ。ガキどもに運び屋やらせるのもタダじゃねぇんだからよ』
……うーんやばいな。読み違いしてなければシンプルに違法案件だ。
『ステータス』で確認して問題なければご飯だけ食べて後でカイさんに相談しよ……
「……ほれ」
「あ、ありがとうございます」
「……?」
とりあえず怪しまれないようにヤバいもの入ってないか確認だけして大人しく食べよう。
「レイチェル、どうかしたか?」
「いや、なんでもないよ?」
「……そうか」
ぱっと見た感じ変なものは入ってなかったのでさっさと食べて出よう。
そう心に決めて胃袋に流し込んでいく。
ちょっと身の危険を感じながらも食べた昼食は、意外にもちょっと美味しいのであった。