7-11 冬支度
「うし、んじゃまた明日な」
「はい、ありがとうございます」
各々武器を預け、鍛冶場を後にする。
「ふぅ〜暑かった」
「あそこ熱が籠るから暑いよね……《氷結》」
「あ〜涼しいぃ〜」
「ここらへんでストップ」
「え!?なんで〜!?」
「汗かいたなら冷えすぎると危ないでしょ」
「え〜」
夏場で暑いのはわかるけど風邪は引いてほしくないからね。
「この後どうする?何かやることあるなら付き合うが……」
「ん〜……」
あとやらなきゃいけないことか……思いつかないな……
紙とインクの補充とか彫刻刀の新調とか全く思いつかないわけじゃないけど別に今じゃなくてもいいしな……
「……特に何も無いかも」
「じゃあさ、遊び行こうよ!」
「遊びに?別にいいけどどこ行くの?」
「東区に洋服屋さんができたらしいよ。冬物の準備もしとかないとだし丁度いいと思うんだけど、どう?」
冬物……そういえばもう八月も中旬か……冒険者って何が起きるかわかんないし早めに準備しといてもいいかもしれない。
「そうだね、行ってもいいかも。二人は?」
「俺は構わない。暇だったしな」
「俺もだ。それに冬物だけじゃなくて普通に服を買い足したい。ちょっと小さくなってきたしな」
「……嫌味?」
「え、あ、あ〜えー……すまん」
「よろしい。んじゃ行こっか」
身長について言及しやがったベインをおちょくりつつ、ヒナの言う東区の服屋を目指して歩いていく。
「どうぞ、お通りください」
「ありがとうございます」
最大手ギルドと戦魔術師というネームバリューのゴリ押しで関所を通過する。
こういうとき手続きに手間取らないのはほんと楽だな……
「……ん?」
あれなんか今変な反応があったような……
「どうした?」
「……いや、なんでもない」
「……そうか」
なんだろ今の反応……変な魔道具持ってたみたいだけど……流石になんの魔道具かはわかんないな。
あと持ってたのが子供っぽかったけど……ちょっと見えなかったな。
しまったな……制限かけてなかったらもっと詳しく見えたかもだけど……まあこんな街だし深追いしないほうがいいかな。
あとなんか東区って他の区と比べても治安あんまり良くないみたいだし何があっても不思議じゃないのかな。
それに治安維持とか犯罪者の逮捕って冒険者じゃなくて騎士団の仕事だしあんまり首突っ込まないほうがいいな。
必要だったらギルド経由で依頼来るだろうしそれまでは関与しないほうがいいかもしれない。
「……?行くよ〜?」
「あ、ごめん」
帰りもおんなじような反応拾ったらできるだけ情報拾ってカイさんに相談してみようかな……
「え〜っとね……ここ左かな?」
「……右じゃない?」
「え、あ、ほんとだ」
「これ地図逆さだろ。ほら」
「ほんとじゃん」
……大丈夫かなこれ。
そのままあーじゃないこーじゃないと言い合いつつ東区を進んでいく。
ヒナってここまで方向音痴だったのか……いやこれってもしかして子供の頃から《空間把握》を使える私たちがいたからじゃないか?
だとするとなんかちょっと申し訳ないな……
「え〜っと……あ、あった」
「あの店か?」
「うん。行ってみよ〜」
ヒナを先頭に店に入っていく。
新しくできたというのは嘘じゃないらしく、汚れの一つもない綺麗な装いだ。
「いらっしゃいませ〜」
店員に迎えられながら中に入る。
並べられてる商品も綺麗だし……大丈夫そうかな。
「それじゃ後でここ集合にして各々見て回る形にしよっか」
「だな。じゃ、また後で」
「後でね〜」
「俺も探しに行くか。じゃ、またな」
各々欲しいものを探しに歩き出す。
店内はそこまで広くないけど全員固まって動くのは他の人の邪魔になるし非効率的だからね。
それに人の買い物を一つ一つ見てるなんて邪魔でしかないしね。
「えっと……これにしようかな」
厚手の長袖と長ズボンを何着か籠に入れる。
これだけあれば冬の洗い物が乾きづらい環境でも洗い替えで着れるだろう。
「あと……ん?」
レディースコーナーの隣のコーナーに目が止まる。
「生理用品コーナー……そういえば……」
そういえば私って初潮まだ来てないんじゃ……いや個人差あるらしいし……でも運動のし過ぎとかストレスで来なくなるようなケースもあるって……
「……買うだけ買っとくか」
……うん、備えだけしておいて深く考えないようにしよう。
そう割り切って籠の中に生理用品を詰め込んでいく。
……よし、これだけあったら冬はなんとかなるかな。
籠に入れた物の最終確認をし、レジに持って行って会計を済ませる。
さて、そろそろ集合場所に戻ろうかな。
みんなは何買ったんだろうな……