7-10 冒険への支度
「んぁ……」
差し込む朝日で目を覚ます。
この時間に起きるのはもう習慣だけど今日は一段と朝日が眩しく感じる。
「……起きるか」
ベッドから体を起こし、髪を梳かして身なりを整える。そろそろ髪を切りたくなってきたな。
子供の頃から伸ばしてきた長髪だけど最近は括っておくことが多くなったな……今日は動き回る予定はないしポニーテールにしとこっかな。
「……よし、こんな感じでいいかな」
濃紺のロングコートではなく、暑い夏のこの時期らしい半袖半ズボンに袖を通し、最低限の荷物を持って部屋を出る。
目指すのは郵便局……みたいな仕事もしてる馬車を出してくれる会社だ。
昨日の夜書いた手紙を出すためだ。
けど、その前に──
「おはよう」
「おはよう。今日は俺の方が早かったな」
「この勝負もなんか久しぶりだね」
「これ勝負だったのか?」
「ん〜どうなんだろうね?」
「そっからだよな。あ、来たぞ」
「ごめんお待たせ〜」
「おはよう」
「おはよう!」
「すまん待たせた」
「いいよ全然。行こっか」
全員揃った後に酒場に入り、朝食を空っぽの胃袋に流し込む。
何かするのは、食べて体を元気づけてからでも遅くないはずだ。
「これでよしっと」
「あとは届くのを待つだけだな」
「だね。私たちだけじゃ作れないだろうし、先生が送ってくれるのを待つしかないね」
「どれくらいかかるかな?」
「わかんない。三日で来るかもしれないし、五日かかるかもしれないし、一週間経っても来ないかもしれないし、一ヶ月以上かかるかもしれない」
魔法陣の解析自体時間がかかるのに、そこに解説までお願いしてるんだ。
元々習得していたとしても感覚的な部分まで言語化して他人が理解できるようにするのはかなり難しい。
元教え子という間柄じゃなかったら断られても仕方ない頼みだ。
だからいつ返事が来るかも、資料を送ってくれるかも分からない。ぶっちゃけ半々くらいで断られるとも思ってる。
先生も忙しいだろうし同じような頼みをするのも二回目だしやってくれるかな……
まあ今考えても仕方ないしできることからやろう。
「次は鍛冶場行くよ」
「魔道具の素体作りか?」
「お、正解。形状は魔導榴弾と同じ形にする予定だから頼めば作ってくれると思う」
「なるほどな。金は大丈夫か?」
「うん。なんだかんだ貯金はあるからね。余裕余裕」
「俺達も使うことになるだろうしむしろちょっと出させて欲しいんだが……」
「いいよ全然これくらい」
私の今の貯金額と比べれば本当に安い買い物なんだ。この程度別に出してもらわなくても好きなだけ買える。
まあ、作ってくれるか交渉するところからだけども。
「……そうか」
「いや、ありがとね」
別に必要としてなかっただけで善意はありがたいものだ。感謝はしてるんだ。
うーん、次からは素直に受け取ろうかな……
「……とりあえず行こっか!」
ちょっと気まずくなった空気を変えるためにもギルドに向かって歩き出す。
幸い馬車の会社とギルドまではそこまで離れてない。徒歩数分で着く距離だ。
それにもう外に用事は無いしギルドに戻ったらそのまま作業にも鍛錬にも取り掛かれる。
出来ることなら依頼もサクサク終わらせて作業に移りたいな……
そんなことを考えつつ、早足で歩いていく。
「すいませーん!」
聞こえてるかわ分からないけど一言声をかけてから重たい扉を開ける。
「あん?ってレイチェルか。今日はどうした?」
「新しい魔道具を作る予定なのでその素体の作成をお願いしに来ました」
「ほう。形状は?」
「前回と同じで構いません。まだ試作品の段階なので作りなれた形でいくつか作ってもらって、改良していこうと思ってます」
「なるほどな。それじゃ試しに五個くらい作ってやる。料金は前回と同じだ。受け取りは明日の一時な」
「わかりました。ありがとうございます」
受け取りは明日か……それまでどうしよっかな……
そんなことを考えつつ帰ろっとした時──
「ちょっと待て、お前ら武器のメンテナンスしばらく来てなかっただろ」
「あー……そうですね」
メンテナンスか……そういえば久しくやってなかった気がする。
私は新調したけど三人は違うし頼んでおいた方がいいかな。
「武器置いてけ。手入れしといてやる」
「すいません、ありがとうございます」
ダグラスさんに注意され、各々武器武器を持ち寄ってメンテナンスを依頼するのであった。