7-9 静寂
「ふーん、十一層の植物はほとんど生き物みたいなもんなのか」
「そうですね。知性があるかまでは分かりませんけどそういう行動を取る習性があるのは確かだと思います」
「となるとそれなりに対策しなきゃいけない感じか……道は作ってもすぐ吸収されるしな……」
「解毒剤を作るか植物に寄りつかれないようにするか……」
「それも相手の数が多いからジリ貧になりそうだよね……やっぱり焼き払う?」
「殺す気か。火を燃やすと煙が出る、そして煙は人にとって毒になるんだぞ?煙は上に向かって流れていく性質があるとはいえ迷宮って密閉空間だとどうなるかわかんないだろうが」
「うーん……」
十一層の毒草対策は難航していた。
解毒剤を作っても数が多いからすぐ使い切るだろうし、アーノルドさんのように解毒できる魔術師や聖術師を連れて行ってもそれに頼りきってたらすぐに魔力切れになる。
焼き払うのは論外、一酸化炭素中毒で全員気絶するか行動不能になってるところを襲われるだけだ。
うーんなんともめんどくさい。要するに燃費が良く、外敵からの襲撃に対応できて、なおかつ毒草に寄りつかれない、毒を無効化できる仕組みを作らなきゃいけない。
心当たりがないことはないけど……今のままじゃ無理だな。せめて参考資料の一つはないと成功しない。
「対策に使える魔道具作れないことはないと思いますけど時間かかると思います」
「作れるのか?」
「多分作れます。ただ時間がそれなりにかかると思います」
「まあそれくらいいいだろ。まだ時間はあるしな。なんなら資金援助でもしようか?」
「流石にそこまでは……」
「作れたら十一層の探索に役立つから別にギルドから支援してもいいんだけどな」
「でも利権とか絡んでくるじゃないですか」
「まあ、それは仕方ないだろ。大々的に援助するってなるとどうしても他にパクられないよう特許利権は絡んでくる」
「めんどくさいんでいいです」
「もったいねぇの」
「カイさんだって事務作業めんどくさいですよね?そういうことです」
「……そういわれちゃなんも言えねぇな」
迷宮の攻略はできるだけ早いほうがいいんだ。余計な作業に時間は使いたくない。あとめんどくさい。
「んじゃ、毒草対策はレイチェルに任せる。成功したら教えてくれ」
「わかりました。それじゃあそろそろお開きにしましょうか」
「だな。んじゃ会計するか」
席を立ち、アーノルドさんのと私達の分を私達で払い、カイさんは自分で払って会計を済ませる。
「それじゃ、また今度な。アーノルド、無理はすんなよ」
「お気遣いありがとうございます。ですがまだまだ若いので。これくらいはやっておきませんと」
「若さに頼ってるとどっかでガタが来るぞ。なんかあったら頼れ。それじゃあな」
「ありがとうございます。それではまた」
「はい。また機会があればよろしくお願いします」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました〜!」
カイさんとアーノルドさんに挨拶をして、各々部屋に戻る。
「……あった」
拡張収納から鍵を取り出し、今度は元々借りていた一人部屋に戻ってくる。
「ここに帰って来るの、なんか久しぶりだな」
暗く、静寂に包まれた物静かな部屋に懐かしさを感じながら上着を脱ぎ、拡張収納を机の上に放り投げ、ベッドに横になる。
こうやって人の目を気にせずに横になるのはいつぶりかな……
「はぁ……」
こう静かになると色々と考えてしまう。色んな心配や妄想が広がっては理性があり得ないことだと、もう過ぎたことだと否定して煙のように消えていく。
「ん……」
けど、そんな理性もやらなきゃいけないことだけは消去せず、強く意識させてくる。
「やるかぁ……」
部屋はもう真っ暗だ。とっくの昔に日は沈んで、大抵の人は床に就く時間だ。
でも、これくらいはやっとかないとな。
そう思い、ペンと紙を取り出して手紙を書く。
いや、正確には依頼書かもしれない。でもまあ結果が変わらないのであればどっちでもいい。
宛先はランドラ魔術学院のミシェル先生。頼みたいことは闇属性魔術《衰弱》の魔法陣の模写と解説だ。
その旨を近況報告と一緒に手紙に記すため筆を走らせる。
暗く、静かな部屋で、一通の手紙を書く音だけがその空間を満たしていた。