7-6 新天地
石造りの階段を降り、資料で見聞きした緑あふれる土の大地に足をつける。
「おお……」
ジャングルとか、熱帯雨林とか、そういう言葉がよく似合う景色だな。
ぱっと見だけど植生も前世のテレビ番組で見たジャングルのものにそっくりだ。
「へぇ……初めて見る植物ばっかりだな。学院の資料でも見たことない」
「だね〜。大陸の植生とか生態系じゃ見ないやつばっかだしこの迷宮特有のものなのかも。もしかしたら違う世界の植物?レイチェルちゃん知ってる?」
「なんとなく見覚えがあるくらいかなぁ。詳しい特性とか名前はわかんないかも」
そういえばこの世界にジャングルがあるって資料は見たことがないし、話も聞いたことがない。
なのにこんなものがここにあるってことはやっぱり転移者が絡んでるのかな……まあ結局迷宮自体わからないことばっかりだからなんとも言えないんだけど。
「あとさ、もう一つ気づいたことあるんだけど……」
「うん。私も多分同じ事考えてる。壁がないよね」
「だな。上みたいに壁がない。これなら最短距離を行けるんじゃないか?」
「その代わりに四方八方草だらけで歩き辛いって次元じゃないけどな」
「それはほら、ヒナが道を開けてくれるよ」
「任せて〜!いっくよ〜!」
「え」
「ちょ待っ──」
「《火炎》!」
ヒナの手から炎が噴き出す。
そしてそれはある意味狙い通りに私達の道を切り開いていく。
「あ」
ただ一つ、想定外のことがあったとすれば、未だにヒナの魔術は雑だったということだ。
「ヤバっ──《霜獄の領域》!」
狙い通り炎は切り開いた。ただ、狙った以上に延焼して開きすぎてしまった。
うん、このままだと十一層が焼け野原になる。
そう考えついた時には消火活動に勤しんでいた。
燃え広がった炎を消していくこと約三十分、なんとか焼け野原は回避できた。
「ごめん!」
「いや……仕方ないよ……こんな燃えやすいものばっかりじゃ誰でもそうなると思う……けどちょっと火力強すぎたかな……?」
息切れしながら慰めの言葉をかける。
これは考えなしに気軽に焼いちゃおうとか言った私が悪かった。
「はぁ……俺の岩兵を先に行かせて道を作る。焦らずゆっくり行こう」
「だね……」
マルクが出した岩兵が踏み固めて作った道を辿るように歩いていく。
ちょっと時間かかりそうだな……この時間使って少し周りを視ようかな。
「……《空間把握・二重展開》」
魔術をこの層全体に向けて展開し、情報を読み取っていく。
さっきみんなで話した通り植生が独特だ。地上じゃ見ないタイプの植物ばっかりだ。
視える魔物も独特なものが多い。
猿型の魔物、蚊のような小さな虫の魔物、ジャガーに似た四足歩行の魔物、……あとほぼ恐竜みたいなのも居る。
恐竜以外は大体前世のジャングルとそこまで変わらないんじゃないか?
湿気も凄いし気温も高い。生態系はほんとに変わらないだろうな。
なら、どんな魔物かは多少予測が立てられる。
恐竜とかジャガーは多分想像通りだ。変わってるとしたら体格がちょっと大きいくらいだ。大体二メートルから四メートルくらいかな?
あと虫系は毒持ちが多いイメージだなぁ。特に蚊だ。前世のジャングルの蚊は病気を運んでくる厄介な虫だとテレビで見たことある。マラリアなんかイメージ強いな。
帰ったら解毒剤とか治癒魔術系の資料探すかなぁ……
「いてっ」
「ん?ヒナ、どうしたの?」
「なんか今足がチクッとしたような……」
「チクッとした?茨でも生えてたか?」
「いやなんというかこう……」
「……ちょっと見せて。マルク、地面を土で固めて」
「わかった」
マルクが改めて足場を土で作り、その上に座ってるもらって異常を訴えるヒナの足を診る。
「……なんか青紫になってる」
「え」
皮膚が変色してる……毒か?
確か資料によると植物も毒を持ってるらしいけど……マルクの岩兵がしっかり踏み固めてるから単純に刺さったとは考えにくいし……まさか──
「何これ……植物が動いてる……?」
風で揺れてるだけかと思ったがよく見ればそれぞれ動きが違う。揺れる大きさも方向もバラバラだ。
この層の植物全部かは分からないけど、獲物に向かって自力で動いてる。
「──まずい!撤退!」
号令と同時に、空間跳躍を使ってこれまで進んできた道を全力で引き返す。
「──っはぁ!」
「どうしたんだ!?」
「植物が自力で動いてる!それも多分毒持ち!ヒナは多分それに刺された!」
「マジか!?解毒は!?」
「試してみるけど多分無理!急いで地上に戻るよ!」
「了解!」
「わかった!」
急いで状況を共有し、ヒナを背負い地上めがけて走り出す。
この人数だと不死鳥での移動は無理か……急ぐしかない。
「わわっ!レイチェルちゃん!自分で走るから……」
「足負傷してるんだからダメ!いいからじっとしてて!」
「──ごめん!」
「そこはありがとうって言って欲しいなぁ!」
「じゃあありがとう!」
緊張感の欠片も無いような会話をしながら走る。
まあ内心焦ってる所の話じゃないくらい焦ってる。一応冷やしてるけど出どころが正体不明の植物だ。どんな効果があるか分からない。
とにかく急いで医者に見せないと……!
その一心で、両足に力を込める。