7-4 肩慣らし
「これからどうするの?とりあえず決めてたやらなきゃいけないことは終わったけど……」
カイさんと別れてからしばらくした後にヒナが新しい話題を切り出す。
「そうだな……迷宮行くか?せっかくカイさんのお陰で十一層に入れるようになったし」
「だね。どんな感じなのか気になるし一回行っておきたいかも。……それに結局迷宮は攻略しなきゃいけないしね」
「……そうだな。じゃあ昼食を摂ったら迷宮に行こう。しばらく行ってなかったしリハビリも兼ねてゆっくり攻略していかないか?」
「賛成〜!」
「俺も賛成だ。しばらく魔物相手に戦ってなかったからカンを取り戻さないとだしな。それに新しい技も試したい」
「あ、そういえば実家に戻って鍛えてきたんだよね?あとでちょっと教えてよ」
「奥義とかに触れない基礎的なところならいいぞ」
せっかく剣術道場の門下生がいるんだ、なまった剣の腕を直すのを手伝ってもらおう。ついでに模擬戦なんかもやれたら面白そうだ。
前と違って命がけじゃなくていいからそれなりに気軽にやれるし楽しみだ。
「それじゃさ、軽く体うごかしてからご飯にしようよ」
「確かに。時間的にはそれでちょうどいいな」
「じゃああそこでちょっと練習しよっか。ついでに模擬戦とかしない?」
「あ、いいなそれ。学院以来やってないんじゃないか?」
「確かに」
「久しぶりに手合わせができるな。楽しみだ」
「私もやっていいよね?」
「もちろん。ベインもやるよね?」
「ああ。勝てると思うなよ?」
「うわぁ調子のってる〜」
「ハッ、負かしてみろってんだ」
「んだとこのやろ〜」
久しぶりの手合わせを楽しみにしてる私とマルク、いがみ合うヒナとベイン、話すことも考えてることも違うけどなんだかんだ足並みそろえてギルド内の広場を目指して歩いていく。
「よし、行こっか」
「だな。もう肩慣らしは十分だ」
「次は勝つ」
「次はぶっ飛ばしてやる」
「はは……二人とも、ほどほどにね?」
殺気立ってる二人をなだめつつ、装備品の最終確認をしていく。
ちなみに模擬戦は総当たり戦で三本先取形式でベインが全勝、私が二勝一負、マルクが一勝二負、ヒナが全敗だ。
普段は魔力量を活かして後衛に徹してるけど、ヒナの戦い方は本来小柄を活かし魔術も使いつつ懐に潜り込む速攻型だ。
手の内を知ってることに加え三本先取というルールが不利に働いて残念ながら白星を挙げられす殺気立ってる。
次はルールちゃんと考えないとな……
ちなみに私がマルクに勝ったのはマルクは正統派なパワー重視の前衛タイプで、私は魔術を使って妨害しつつの絡めてタイプという相性が影響してる。
ベイン?ベインは二本の刀を使った手数多め、かつパワーも高い万能型。魔術も大技は出す前に止めて小技は自力で突破する理想形の戦い方。それでいて徒手空拳や暗器なんかの搦手にも強いしなんならあっちも搦手使ってくる。
魔物相手っていう武器が通りにくい相手の土俵じゃなきゃ普通に負けてる。
今回はかろうじて一本取ったけど不意打ち紛いのやつだったしなぁ……
ルール上寸止めでやりづらかったのはあるしやっぱ殺すくらいの気持ちで行けないと押し負けるな。
「よし、行くよ」
「ああ」
「わかった」
「了解〜」
気持ちを切り替えて迷宮の中に入っていく。
午前中の模擬戦で準備運動は十分できた。久しぶりだから肩慣らしも兼ねてできるだけ戦いながら行こう。
「《空間把握》」
何度も見た迷宮内の構造を改めて視て行く。
「……よし、行こうか」
多少寄り道になっても通り道の近くにいる魔物を全部狩るようにして進んでいく。
そして、少し進んで人の目が無くなったところで──
「ヒナ、ちょっといい?」
「何〜?」
「これ使ってみてくれない?」
「いいよ〜……ってこれ!アルカディアが持ってた聖遺物じゃん!」
「うん。あれ以来触っても反応なかったから大丈夫かなって。それに私じゃ上手く使えないと思うしね」
「……いいの?」
「うん。使ってあげて。きっとアルもこのまま眠らせておくより使った方が喜ぶと思うから」
この先進んでいく過程で使えるなら使って欲しい。アルならきっとそう言う気がする。
「……わかった。使ってみる」
ヒナはそう言うと手のひらの上の卵に魔力を集中させる。
「──わっ!」
ヒナの魔力を食って、アルが使ってた頃と遜色ない大きさ、魔力密度の巨鳥が形成される。
「命令できそう?」
「うん」
私の問いに答えるように大きくしたり小さくしたり、飛び回らせたり、自在に動かしてみせる。
今のところ暴走の気配もないし普段使いしても問題ないだろう。
これは、きっといい戦力になるな。




