7-1 後悔の旅路
あれからしばらく引きこもった。
沢山泣いたし、後悔したし、八つ当たりもした。お陰で部屋は氷漬けだ。
ほんとあそこで帰る部屋を前に借りてたところじゃなくてなにもないこっちにしてよかった。
……いやまあ、なにもないからって氷漬けにしていいわけじゃないんだけどさ。
「還元……よかった、うまくいった」
流石にこの量の氷を火で溶かして乾かすのはめんどくさいからね。凍らせてから時間が経ってたから不安だったけど良かった。
「はぁ……心配、させたよねぇ……」
最後に顔を合わせてからもう五日経ってる。食事も保存食で何とかしてたしほんとに部屋から出てない。
なんなら扉は氷漬けで今の今まで開かなかったし。
それでも無理矢理吹っ飛ばして入ってこなかったのは私を気遣ってかな……まあ多分そろそろ痺れを切らして押し入ってくる頃合いな気がするけど。
でもまあそのおかげでじっくり考えられた。
アルのことはもう必要以上に考えないようにした。下手に考えて思い詰めて『沈静化』で感情を持っていかれるのは嫌だったし、結果として互いに望んだ形になったからだ。
結果だけ見ればアルは願いを叶えたし、私もその手助けをできた。本当に結果だけ見ればWin-Winの関係なんだ。
それに、こうやって閉じこもってうじうじ考え込むのも多分アルは望んでない。死ぬ時まで私に申し訳なさそうにしてたし、私が元気で居ることが多分アルにできる一番の手向けだろうな。
……まあ、その考えで行くととんでもなく不義理なことしてるけど。
アルの遺品の整理も考えたけど……そもそも一つを除いて特にアルは物を持ってなかったんだよね。一緒に買いに行った服くらいしかない。
多分遺品の処理に困ると思って気を使ってくれたんだろうな。
……まあ、その分一番厄介なのが残ってるけど。
不死鳥の卵、どうしよっかなぁ……
ここ五日間で再起動する兆候はなかったし、あの暴走は多分一回きりだったんだろうな。持ってみても反応なかったし。
……となると、私達に使えるんだろうか。試してみないと分からないけど……私一人でやることじゃないかな。まあ勝手に持った後に言えることじゃないけど。
そういう話し合いもしたいけど、今はみんなに顔見せる方が優先かな。
泣きじゃくり続けて赤く腫れた目元と荒れた肌を血魔術と治癒魔術で治していく。
ここまで手入れをサボってニキビができてないのは若さゆえかな……
……うん、こんなもんでいいかな。
鏡を見ながら調整していく。多分人に見せても恥ずかしくない顔にはなったはずだ。
後は体を洗って着替えてボサボサの髪を梳かして纏めるくらいかな。
「村雨、お願い」
『フロアボス』の戦利品として譲ってくれた聖遺物に魔力を流し、対象を絞って体を凍らせていく。
凍らせる対象は皮脂、汗、垢といった体の汚れ。それを凍らせて村雨の特性を活かして還元する。
つまり体を魔術で洗ってる。
「……うん、やっぱり凄いなこれ」
少し対象を絞っただけで髪も肉も巻き込まずに綺麗に消えた。
魔術の腕が上達したと考えるべきか、聖遺物が凄いと考えるべきか。
まあなんにせよ便利なことには変わりないんだしこれからも使い続けるだろうな。
「よい、しょっと」
この服にも久しぶりに袖を通すな。
思い返せばせっかくオーダーメイドで作って貰ってたのに一着目を使い始めて早々に炭にするのは勿体なさすぎだな……まあ仕方ない事なんだけどさ。
「……よし」
氷で姿見を作り、どこからどう見ても元気な自分であることを確認する。
「……行くか」
この五日間、弱い自分で溢れていた部屋の扉を開ける。
考えたいことは考えたし、泣いて泣いて泣き疲れて寝落ちしてまた泣くくらい涙は流した。
落ち込む時間は十分取った。弱気な自分はここまでだ。
きっと、アルもそうすることを望んでくれてるはずだ。
それにやらなきゃいけないことで一杯だ。
いつまでもここに立ち止まってられない。
それに、みんなに顔を見せてあげないとね。
長い後悔から錨を上げ、再び歩き出す。