表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/398

6-68 失望

「……レイ」

「……うん……もう、帰らないとね……」


 もう、やれることはなくなった。

 ……いや、本当はもう何もしたくないだけかもしれない。

 少し考えればやらなきゃいけないことはいくつも思いつく。


 でも、今は何も考えたくなかった。


「うん……でも、レイチェルちゃん、アレどうする?」

「……あぁ、卵は……持って帰ろっか。多分もう勝手に動くことは無いだろうし……放置しとくとどうなるか分からないしね……」


 落ちていた不死鳥(フェニックス)の卵を拾い上げ、仕舞おうとした時だった。


「っ──レイ!」

「え……?」


 卵から、青い炎が溢れ出す。


「何、これ……」

「いいから捨てろ!」


 言われるままに投げ捨てる。

 何だこれ……


「……《血伝想起(ブラッドメモリアル)》」


 アルに教えてもらったやり方で過去の記憶を引っ張り出す。


 ……あった、これか……『所有者、もしくは貸与者の手から離れた場合暴走する』。確かに言ってた……クソ、ここにきてこんなミスするなんて……まだまだ使い方が甘いな……


「どうする!?」

「……逃げよう。卵の回収は、諦めよう」


 ここで無理して戦っても勝てる見込みはない。

 初動で抑え込めたならまだしも私がミスったせいでもう体は完成してるし逃げるしかない。


 ……貴重な聖遺物を回収できないのは勿体ないし、放置すればどうなるか分からないけど、仕方ない。


「撤退──」

「レイチェル!」


 撤退しようと言おうとした瞬間、ベインに押し倒される。

 そしてそれと同時に紅い軌跡が奔る。


 カイさんの螺旋槍だ。


 どこからともなく飛来した神器は不死鳥(フェニックス)の核を貫く。


「あ──」


 その一撃で、完全に不死鳥(フェニックス)は活動を停止し、青い炎は跡形もなく消え去る。


「……なんで、槍が……」

「さあな。でもとりあえず卵は回収できそうだぞ」

「……だね」


 起き上がり、魔力で卵を覆ってから卵を仕舞う。


「……なんで気づけたの?」

「お前らの《空間把握(グラスプ)》は階層ごとに魔力が遮断されるから気づけないだろうけど俺の聴力強化は音を拾ってるだけだからな」

「あぁなるほど……」

「それで、どうするんだ?」

「……帰ろう。槍もカイさんに返さないといけないしね……」


『フロアボス』に使ったときは勝手に帰ってきたけど今回は魔力が残ってないのか戻っていかないから後で返さないとな……


「……だね。帰ろっか」

「ああ。……レイ、アルカディアの遺体、どうする?」

「……残念だけど、置いていくしかないかな」


 本当は上に持っていってちゃんと埋葬してあげたいけど、そんな余裕は残ってない。


 ……情けない。


「……行こっか」


 ぐちゃぐちゃな心の内を吐き出すのを我慢して、地上に向かって歩き出す。



















 あれから三時間後、なんとか無事に地上に戻ってこれた。

 迷宮の入り口でカイさんが待ってくれたから槍はちゃんと返せた。

 幸いなことに、代償を支払ったこと以外は目立った傷は受けてなかったから病院に行く必要もなかった。


 死傷者なし、その上で目標は達成した。それなのに、誰一人としてそれを祝う気にはなれなかった。


「すみません、今日は、ありがとうごさいました」

「気にすんな。……大丈夫か?」

「……はい」

「……無理はすんなよ。それじゃ、またな」


 ギルドでカイさんと別れる。


「……それじゃ、また後で」

「うん、また後で」

「またね、レイチェルちゃん」

「うん、またね」

「またな」

「うん、また」


 三人とも別れて、部屋に戻る。

 無駄に広く感じる、二人用の部屋に。


「はぁ……」


 ため息が暗闇に溶けていく。


 私はこれからどうしたらいいんだろう。



 今後悔したって、全部後の祭りなのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ