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6-67 別れ

大地の護り(アースプロテクション)!!」


 マルクの魔術によって壁が立てられる。

 それは、今までに見たことのない、黒い金属てできていた。


「マルクこれ……!」

「ああ!俺なりのオリハルコンの再現だ!これなら少しは持つはずだ!」

「ありがとう!」


 オリハルコン、それは神話と呼ばれるほど古い物語や資料に登場する架空の金属。

 その伝承はこの世界にもあった。けどまさかそれを作るなんて……


 推測するなら多分いろんな金属を混ぜ合わせた合金だ。もっとよく視れば何が混ぜられてるか分かるかもしれない。

 けどだからといって再現するのは無理だ。これはいろんな金属の理解が深く、地属性魔術に秀でたマルクだからこそ再現できるものだ。


 ヒナもマルクもこんなの隠してたなんて……やっぱりみんな凄いな……


 そんな感心を覚えつつ、村雨に蓄えた魔力を練り上げていく。


 この閉鎖空間で出せる最大火力……高さがないから《天墜彗星(メテオ)》は除外、飛翔氷剣・氷晶大剣フロスト・ソル・バスタードは……多分向いてない。当たったところから溶けて大部分のリソースが無駄になる。

 今回は狙う場所が分かってる、核になってる卵を攻撃すればいい。


 なら作る形は──


「ぐっ……ベイン!」

「ああ!全員こんな隠し玉出してんだ、俺だけ隠したまんまなんでもったいねぇ!行くぞ!《隔絶虚空大気(ヴォイドエアリアル)》!!」


 オリハルコンの壁が消えるのと同時に、濃密な風属性の魔力による障壁が出来上がる。


 これは……真空状態?

 なるほど、これなら火の性質上炎がこっちに届くことはない。

 酸素を無くして炎を止める。理にかなった方法だ。


 けどまさか魔術がそこまで得意じゃないベインがここまで高度な魔術を組み立てるなんて……


「クッソ……すまん!そろそろ限界だ!」


 その宣言と同時に真空の壁が消える。


 まあ分かってた。多分長くは持たないだろうなってのは予測できてた。


 でも不死鳥(フェニックス)相手にここまで持たせてくれたんだ、十分すぎる。


 それに不死鳥(フェニックス)もいい加減息切れしてきたのか攻撃の手が止まった。


 攻撃するなら今しかない!

 二人がここまで繋いでくれたんだ、絶対に決める!


「大丈夫!二人は下がってて!」


 無詠唱で二人を空間跳躍で後ろに移動させ、練り続けてた魔力に形を与える。


「『剣気を纏う氷晶よ』!『呼びかけに応え』『舞い踊れ』!《飛翔氷剣(フロスト・ソル)》!」


 村雨の十個の刃全てを集め、それを核にして一本の氷剣を作り出す。

 そしてそこから、さらに形を変えていく。


「『我が難敵を貫く矛となれ』!」


 追加でもう一節唱え、形を変える。


「《飛翔氷剣・破貫槍フロスト・ソル・ストライク》!!」


 巨大な氷の槍が、カイさんの螺旋槍並かそれ以上の速度で核を貫く。


「あぁ──」


 ピシピシと音を立てて、淡く発光する魔力が零れ出す。


 炎の体が、崩壊していく。


 ……やっと、終わったな。


「レイ!まだ終わってない!」


 終わってない、その一言で気を引き締め直す。


 なんだ?何が──


「っ──!させない!」


 不死鳥(フェニックス)の目から涙が零れ落ちていた。


 不死鳥(フェニックス)の涙には再生能力がある。それはこの一週間で痛いほど理解してる。


 ここで回復を止められなかったらここまでの戦いが無駄になる。

 何が何でも止めないと……!


「《氷結(フリーズ)》!!」


 搾りかす見たいな魔力を無理矢理捻り出す。


 クソ……!足りない……!なら、代償を使ってでも──


 紅い氷霧が涙を包み込む。


 あと少し──!


「はぁ──はぁ──あ、危な……!」


 すんでのところでなんとか涙を凍らせて回復を阻止できた。

 それが効いてかは知らないけど不死鳥(フェニックス)も活動を停止して卵に戻ったしこれで本当に終わったはずだ。


 ……なら、後は──


「……アル、全部終わったよ」

「けほっ──あぁ、見てた。無駄に強くなると、楽に死ねなくて本当に困る」

「っ……」


 そんなこと言うなよ、そう零れかけたのをなんとか押し留め、滲む視界でアルを見つめ返す。


「……ほんと、すまん」

「っ──大丈夫!大丈夫だから……そんな顔、しないでよ……!」

「……ははっ、そう、だよな……なんで、泣いてるんだろうな……」


 泣いてるとも、笑ってるとも取れる表情で、見つめ合う。


 あぁ──これが本当に、最後なんだ。


「はぁ……最後に一つだけお前に言わなくちゃいけないことがある」

「なに?」

「記憶、全部取り戻したんだ」

「あ……そっか、そういえばまだ全部思い出してなかったんだっけ……」

「ああ……げほっ──もう時間無いな……いいか、よく聞け、転生者、転移者は俺たち五人だけじゃない、()()()()()()

「え……?」

「あとは……お前ならきっと自力で辿り着ける。諦めてた俺が言うのもなんだけどな……頑張れよ」

「待っ──」


 いや、違う。その言葉は違う。

 今は、どんなに酷い顔をしてても、無理矢理でも笑って送り出すべきだ。


「……すまん、俺はここまでだ。それじゃ──じゃあな」

「──うん……!」


 多くを語ることはなく、話は終わった。

 瞳孔反射を失った瞳を隠すように瞼を下ろす。



 今、一人の転移者が、この世界を去った。

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