6-66 極小太陽
「ぐ、うぅ──!」
薄く青色に発光する杖と村雨を握り、使えるだけのリソースを最大出力で放出していく。
焔の羽の魔力と、私の冷気が空中でぶつかり合う。
クソ……これだけやってもまだ押しきれない。
今勝負になってるのはギリギリ出力で勝ってるからだ。このまま長引いてリソース勝負になれば負けるのは目に見えてる。
早めに押し勝たないと……!
「くっ──なら、代償を──!」
私の全部を使ってでも勝つ覚悟は決めてる。
それに今まで避けてたとは言え結局上で使っちゃったし、今更追加で使うことに躊躇いはない。
槍に使ったときの感覚を頼りに体力を代償に支払っていく。
文字通り命の籠もった紅い魔力が、村雨に注ぎ込まれる。
そしてそれと同時に青い光が紅に変わり、出力が跳ね上がる。
「いっ、けぇ……!」
気持ち悪い。命を削ってるんだから当然と言えば当然なんだけど、本当に気持ち悪い。
この生理的に嫌悪感を覚えるような吐き気と目眩、耳鳴りには慣れたくないな……
でも、今はそんなこと気にしてる余裕はないし、気にするつもりはない。
比喩抜きの死ぬ気で魔力を動かしていく。
少し、あと少し……!
「……よし!」
三十八枚の羽の内、三枚の操作権を消せた。
そして相手の動かせる羽の数が減ったことで均衡が崩れ、連鎖的に羽の操作権を消していく。
けど、上手く行った、そう喜んだのも束の間、操作権を失った羽が臨界を始めた。
対応が早い……あっちもかなりリソースを注ぎ込んでるはずなのにここまで潔く使い捨てられるとな……防ぎきれたとしてもこっちもリソースを持ってかれる。……いや、それが目的か?
……でも、防御を捨てる選択肢はない。あの範囲、あの火力の爆発をこの閉鎖空間で避けきれる保証はない。
なら、損害覚悟で防ぎ切る以外選択肢はない。
片っ端から羽の操作権を剥奪し、爆発を五枚の氷壁で防ぐ。
壁は崩れたそばから還元し、そのリソースを使って補強する。
そうして攻撃を防ぎ、羽を捌き切ったのは、蓄えた魔力の八割を消費した時だった。
「レイチェルちゃん!」
「うん!大技の後でかは知らないけど動きが鈍ってる!行って!」
「俺も補助に出る!できる限りのことはやるから全力でぶちかませ!《暴風》!」
「分かってる!『宙を照らす灯り』『夜明けを告げる炎の天体』!」
私が防御に回ってる間、後ろで溜め続け練り続けた魔力をヒナは詠唱と共に放つ。
「《宙へ昇る陽光の星》!!」
ありったけの魔力を濃く、濃密に等身大まで圧縮した太陽を思わせるほど高温の球体を不死鳥目掛けてぶつける。
ベインの補助も相まって以前見た時より温度が高い。不死鳥にも劣らない温度と魔力密度だ。
これなら不死鳥にもダメージが通るはず。
「いっけぇ!!」
ヒナが声を張り上げるのと同時に不死鳥はヒナの太陽に飲み込まれる。
弱らせるだけなら過剰火力な気もするけど……裏で誰かが操ってる可能性がある以上完全に沈黙するまでやったほうがいいかな。
さて、これで足りなきゃあとはもう──来た!
ヒナが魔力を使い切ったのか太陽が萎んでいき、消滅する。
そしてそれによって飲み込まれた不死鳥の姿が見える。
羽は減り、体を構成する炎の温度は下がり、魔力の反応も弱ってる。
──けど、まだ動いてくるレベルのダメージだ。
「《空間歪曲・圧縮跳躍》!まだ動いてくる!」
咄嗟に空間跳躍で攻撃を回避し、攻撃に移れるポジションにヒナ以外の二人を移動させる。
「くっ──《火炎》!」
「ヒナ!もう魔力残ってないでしょ!無理しないで下がってて!」
「……ごめん」
「大丈夫。アルを守ってて」
「……わかった」
ヒナはさっきの大技で魔力切れだ。ここからは三人でやるしかない。
なら、ここからできることは一つだけだ。
「レイ!」
「レイチェル!」
「うん!」
二人に防御を任せ、残ってるリソースを全部攻撃魔術につぎ込む。
狙うのは、村雨を使った大技の直撃。そのための時間と隙は二人が作ってくれる。
私にできることは、二人を信じて大技を当てることだけ。
二人への信頼を胸に、残りの魔力を流し込む。