6-65 堅牢
「《霜獄の領域》」
もう一段階強く冷気を放出し、戦うための土台を作る。
ここからは攻勢に出る。
「回避と防御は私がする!好きなように攻撃して!」
「「「了解!」」」
私の合図と同時に三人は攻撃を開始する。
「《大地隆起》!」
「《暴風》!《広域・破壊風砲》!」
「《灼竜砲》!《緋炎剣》!」
一斉に魔術を放つ。
事前に決めていた通りの立ち回りだ。
けど──
「っ──!レイ!」
「うん!通じてない!」
これもある程度予想通りだ。
多少弱体化してるとはいえ不死鳥の機能自体は変化してない。
もとが高温の焔で作られた体だ。大抵の攻撃は通じないのは予想してたけど……弱体化し火力が落ちた状態でこれはキツイなぁ……
でも、全く通じてないわけじゃない。
ベインの風は性質上多少は効果があるし、ヒナの魔術も火力があるからか、炎どうしで混ざりあって弾きずらいのか、ダメージが通ってるように見える。
「ヒナとベイン中心に攻撃!マルクは二人の補助に回って!」
「了解!」
「了解!」
「レイチェル!俺も補助に回る!どうせ俺が攻撃してもダメージには繋がらない!」
「わかった──っ!伏せて!」
血に塗れた十層に、焔の羽が舞う。
それを認識したのと同時に十層の端まで空間跳躍でアルと三人を移動させ、村雨を全力で働かせて三枚の氷の壁を作る。
これまでに取ったことのないほどの防御姿勢だ。
ただ、こんな鉄壁とも言える防御でもあれは防げるか分からない。
前に見たあの爆発は数メートル離れた位置にいた人まで一瞬で鎧ごと木っ端微塵になった。
そんなの九層より何十倍も狭いこんな閉鎖空間で撃たれたらどうなるか分からない。
多少過剰にリソースをつぎ込むことになったとしても、全力で守りを固めなきゃいけない。
来る──!
宙に舞う焔の羽が、爆ぜ──ない。
焔の羽は爆発することなく、こっちに向かって飛翔する。
「っ──!?」
まずい、想定外の動きだ。
……いや、よく考えれば予測できた。多分理屈としては村雨の刃と《飛翔氷剣》と同じだ。
クソ……油断した……
いや、今は防御の方が優先だ。
回避と防御は任せてなんて大口叩いたんだ。なら、この程度防いで見せないとね……
「《氷の城壁》!」
壁を私達の正面だけから、私達を覆うようなドーム状に形を変える。
そして壁を迂回するように飛んできた羽に合わせて五枚の壁を形成する。
「羽の数は……三十八枚……!」
飛来する三十八枚の焔の羽を、氷の壁で受け止める。
ザクザクと氷の壁に突き刺さり、その高温によって溶かされていく。
……やばい。火力が高すぎて壁の増強が追いつかない。
アルの体を覆うことによる魔力の伝達の妨害と冷気の妨害含めてこの火力か……
……ん、待てよ……もしこれが《飛翔氷剣》と同じ理屈なら……
「っ……《氷結》!」
冷気を追加で放出して、羽を包み込む。
《霜獄の領域》でこの程度の威力減衰ならこれ以上冷気で冷やしても効果はあんまり見込めない。
だから狙うのは、操作権の消失だ。
濃密、かつ他者の魔力を挟めば魔力の操作は難しくなる。
追尾機能がある以上、魔力操作に頼ってるはずだ。
なら、魔力の塊である冷気で羽を包み込んで羽の操作を妨害できるはずだ。
「く、うぅ──!」
流石に火力が違うな……村雨を全力で働かせても冷気が押し負ける。
リソースはあるのに出力が足りない。
「レイ!使え!」
マルクが水を出して手伝ってくれる。
そうだ、あと一手あれば……いや、駄目だ聖遺物どうしの押し合いに加勢しても多分あんまり効果ない。この後の戦いも考えれば魔力体力は温存しておいた方がいい気がする。
「大丈夫!」
「……了解!」
察しが早くて助かる。
これは私の仕事だ。みんなに手伝わせる訳には行かない。
策は考えてある。
この聖遺物は未完成な分足りないパーツを還元する機構が備わってる。
だから多分外部との親和性が高い。
なら──
「外部機構、接続──」
聖遺物に、杖を接続して出力を上げる。
この際杖は使い潰してもいい。というか確実に壊れるけど仕方ない。
「《氷結・二重奏》!」
杖を使い潰すこと前提で無理やり村雨に接続し、出力を上げる。
そしてそれと同時に一部還元し、リソースを増やす。
みんなも、アルも、私自身も、全部守るのが私の役目だ。
絶対に防ぎきる。
その確固たる意思と覚悟をもって、焔の巨鳥と私達を隔絶する冷気の壁を作る。
焔と氷、二つの相対する属性の聖遺物が、遠く深い地の底でぶつかり合う。