6-60 必殺の二槍
「ごめん!マルク、ベイン、もうちょっと時間稼いで!」
「「了解!」」
二人で魔力を込めていく。
数値にすれば、ほぼ0だろう。
マルク達にも無理を言ってる。きっと無理をしてるはずだ。
それでも、魔力を注ぐ手は止めない。
それほどまでに、この第二槍に賭けてる。
「はぁ──はぁ──」
「うっ……」
「レイチェル、ヒナ、そこら辺でいい。あとの足りない分は俺が支払う」
そう言い、カイさんは私達から槍を取り上げる。
支払う……?第一槍でカイさんも魔力はすっからかんのはず。『ステータス』で見ても魔力の数値はほぼ0だ。一体どうやって……
「はぁ……フッ──ぐ……!」
見てわかるくらいカイさんの顔から血の気が引いていく。
それと同時に、紅い魔力が槍に注がれていく。
その反応は見たことがあった。
でも、私達が使うことはめったになかった。
代償だ。
代償については色々研究した。
魔術は魔力という代償を基礎に成り立ってること、そこに詠唱を加えることでさらに強力にできるということ。
詠唱は基本ノーリスクだ。だから十歳以下の子供にも集中力が高まったりして魔術を使いやすくなる、と言い換えて広めてる。
魔力に関してもこれがなきゃそもそも魔術が使えない。
だからこの二つを代償にして使う分には規制もなかった。
けど、問題なのはその二つ以外を代償にした場合だ。
例えば、自分の限界を越えて使おうとした場合、体力の数値が魔力の代わりに減っていく。
文字通り身を削って魔力の代わりに体力を代償に魔術を発動させるんだ。
そのときに使われる魔力……いや、体力はこの赤色によく似た色だった。
でも、その赤よりこの魔力は紅い。
何を代償にしてるんだ……?
「……『ステータス』」
小声でカイさんの『ステータス』を覗き見る。
名前:カイ HP:1065/@/1m-; 魔力:2/534
なんだこれ……体力の上限が文字化けしてる……まさか……
「カイさん……!それは……!」
「大丈夫だ。これを使うのは初めてじゃない。ちょっと休めば回復する」
「でも……!」
体力の上限、それが減るってことは支払った体力がもとに戻ることはなく、命そのものを支払うことに等しい。
「……なんで、そこまでしてくれるんですか?」
「……ははっ!今になって気にするかそこ!……まあ、なんだ、本当はこれまで使う予定はなかったんだ。かわいい後輩に手を貸してやろうくらいの気持ちだったんだがな……うん、全力出さないと怪我どころか全滅まで見える状況になっちまった。まあこれを使うことに後悔はしないし、俺のミスだったって思ってる。だからまあ、気にすんな!」
命そのものを、言い換えれば寿命のようなものをすり減らしながらも、気にするなと励ましてくれる。
……情けない。ここまでされて、返せるものが何も無い。それどころか、ここを突破したとしても私は私の目的のためだけに進むつもりでいる。
なら、せめて、この状況を突破することに全力を尽くそう。
「カイさん、それ私にも手伝わせてください」
「……やめとけ、ロクなことにならない」
「いいんです。もとはと言えばここにカイさんを付き合わせたのは私ですし。その責任は取らせてください。……それに、カイさんにだけ命賭けさせるなんて情けないことしたくないんです」
「……そうか。なら、手伝ってくれ」
「……ありがとうございます」
紅い槍に手を添え、カイさんと同じように代償を支払っていく。
「っ……!」
気持ち悪い。目眩がする。耳鳴りが止まらない。
魔力欠乏症なんて比較にならないくらいの嫌悪感と不快感だ。
「はぁ──はぁ──っ!」
でも、こんなところで逃げてられない。私は、責任を取らなきゃいけない。
こんなことにみんなを巻き込んだことも、こんな危機に付き合わせたことも、何よりアルを追い詰めた責任を取りに行かなきゃいけない。
だからかは分からないけど、代償を支払うことに不思議と後悔はなかった。
……まあ、できることなら二度と使いたくないとは思うけど。
「レイチェル、十分だ。これだけあれば殺せる」
「わかり、ました……マルク!」
「ああ!穿てッ!」
合図と同時に、マルクは魔導榴弾を放り投げる。
刻まれた術式に従い、蓄積された魔力が放出され、作り出された巨大な岩は、大鰐透光蜥蜴の頭部を穿つ。
「ははっ!よくできた後輩だ!ここまでお膳立てされて倒せなかったら、黒鉄ランクの冒険者なんてやめてやらァ!──殺せ!螺旋槍ロンギヌス!」
マルクが作り出した隙を逃すまいと、紅い槍が投げ放たれる。
文字通り全身全霊を込めた紅い軌跡が、暗い迷宮に奔る。