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6-59 必中の一槍

 力一杯、できる限りの力を込めて振り下ろす。


「グァァァァアアア!!?」


 巨体から咆哮が響く。

 けどそんなこと関係ない。私がやることはこいつを倒す、それだけだ。


「はあぁぁぁぁっ!──嘘っ!?」


 こいつ頭に大剣が刺さったまま動き出しやがった。

 タフなのは知ってるけどここまでやるか!?


「ぐ、ぐぅっ……!」


 押し返される。

 あれだけ力を込め、殺す気で振り下ろした大剣が押し返される。というかこのままじゃ砕かれる。


「もうっ……無理!」


 限界を察知して破壊される前に還元して攻撃を空振らせる。

 あそこから押し返してくるのか……


 というかこんなの相手に傷をつけられるベンさんとナズナさん凄いな……アーノルドさんの強化魔術の腕が良いのも影響してるのかもしれないけど……まだまだ遠いな……


「すいませんっ!」

「いや、十分だ!いくぞ!」


 その言葉と同時に、紅い軌跡が奔る。


「貫けッ!」


 神器、螺旋槍グングニルが空を奔る。


 その神秘の槍は、ヒナが溶かし、私とベインでつけた傷に槍は寸分違わず突き刺さっていた。


 さすが『必中』、ただの投擲とは比べ物にならない精度だ。


 これなら倒せる。




 ──そう、誰もが確信した瞬間だった。


「ガッ……」

「カイさん!?」


 槍を投げたカイさんが、鼻血を流し血を吐いて膝をついていた。


「くっ──」

「カイさん!大丈夫ですか!?」


 近寄るのと同時に魔術薬(ポーション)を手渡す。

 明らかに想定外の事態だ。早く体勢を立て直さないと……


「すまん、助かった。戻ってこい、グングニル!」


 突き刺さったままの槍を引き戻す。

 回収までできるとは……凄いな……


「っ……やっぱりか」

「何があったんですか?」

「魔力切れだ。事前に補給した分まで使い切ってやがる」

「魔力切れ……取り巻きにも使ったからですか?」

「多分な……クソッ、()()()の効果まで使うんじゃなかった……焦ったか……」

「二つ目……?」


 二つ目ってなんだ。効果は『必中』だけじゃないのか?


「すまん、神器そのものの数が少ないからできるだけ情報を隠してたのが仇になった。お前たちには説明しておくべきだった……本当にすまん」

「……いや、仕方ないです。それよりここからどうするんですか?マルク達が抑えてくれてますけど多分そこまで持たないと……」

「だろうな……レイチェル、取れる選択肢は二つだ。逃げるか、無理してでも進むか。槍の魔力が無くなった以上槍には頼れなくなった。使うにしても魔石を拾って魔力を補給する必要がある。それだけの時間を、稼げるか?」

「それは……」


 分からない。まず槍に魔石を食わせて戻って来るのにどれくらいかかるか分からない。

 五分か、十分か。どれくらいかかるにしても私達だけであれを抑えるのは難しい。

 たった一撃入れるのに各々全力を注いで、それでも押さ押され気味だったんだ。……このまま時間を稼ぐとなると、誰か死にかねない。


「これじゃ足りませんか?」


 いくつかくすねた取り巻きの魔石を取り出す。

 事前に魔力を補給してるくらいだしどこかで枯渇するかもと拾っておいたけど……


「……わからん。二つ目を使うならこれじゃ足りないかもしれない」

「……あの、二つ目って何か、聞いてもいいですか?」

「……まあ、お前たちなら大丈夫か。この槍は螺旋状の二本にそれぞれ名前がある。グングニルと、ロンギヌスだ。そしてその二本にはそれぞれ二つの効果がある。一つ目は『必中』、二つ目は過度の衰弱による『()()』だ」


『必中』と『必殺』……ちょっと凶悪すぎない?


「ちょっと強すぎないですか?」

「ああ。だけどな、その分魔力を食う。どちらか片方、それも相手が弱けりゃ俺だけの魔力で動かせるが、今回みたいに二つ同時、かつ相手が強力な場合は補給がいるんだ。こんなことなら取り巻きの魔石も取ってくれば良かった……急ぎすぎたか……」


 想定以上に魔力を使いすぎたのか……

 どうする……時間稼ぎはちょっと現実的じゃない、このまま倒すのもだ。


 結局のところどうにかして槍を使えるようにしないといけない……手持ちの魔石はさっきくすねたやつと飛行航空巨機(コンバットビークル)用の魔石だけだ。

 これだけで足りるか……?


 ……まてよ、効果は正確には『必殺』じゃなくて『衰弱』だ。なら、さっきの一撃でもそれなりに衰弱させられてるはず……その証拠に、少し動きが鈍い。私の空間跳躍の補助無しで三人で相手できてる。

 けどそれでもこのまま相手し続けるのは難しいかな……結局やるしかないのか……


「カイさん、この槍に手持ちの魔石と私とヒナの魔力全部使います」

「……倒せるかはわからんぞ?正直誰か一人置いて先に行ったほうが……」

「それだと置いていった一人が死にます。……今日、殺すのは一人だけでいいんです」

「……そうか。なら、やれるだけやってみよう」

「ありがとうございます。ヒナ!」

「何!?」

「この槍に魔力ありったけ突っ込む!手伝って!」

「了解!」


 先に行った連中みたく囮作戦なんて卑怯な真似はしたくないし、今日殺すのは一人、たった一人だけでいいんだ。


 そのためなら、なんだってする。



 文字通りの全身全霊を、紅い槍に注ぎ込む。

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