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6-56 不運と不安

 走る。ただ走っていく。


 暗く、魔術がなければ足元も見えない真っ暗な回廊を、魔物が闊歩する危険な道を、止まることなく走っていく。


 本来なら、こんなに急ぐ必要はなかった。もっとゆっくり行く予定だった。

 でも、迷宮に入って事情が変わった。


「前方右通路に二匹います!」

「こっちに気づいてるか?」

「はい!」

「ならサクッと倒して行くぞ!」


 《空間把握(グラスプ)》て視えた魔物の情報を共有し、接敵前から武器を抜いて奇襲をかける。


「っ……!カイさん!こいつも手負いです!」

「またか!さっさと倒して進むぞ!」


 また手負いの魔物と遭遇した。


 これだ、これがおかしい。

 本来なら魔物は出会ったら倒すか逃げるかの二択だ。そうじゃないと魔石が手に入らないからお金にならないし、無理して戦えば死ぬかもしれないからだ。

 だから、本来なら手負いのまま放置するなんてことはない。あるとすれば、魔石を得る以上に優先するべき理由がある時だけ。


 迷宮において魔石より優先するべき目的。

 心当たりはある。一週間ほど前、魔石を必要としない迷宮探索者と遭遇した。


 クレイ教の教徒だ。


 どこからアルが十層に留まってるという情報が漏れたのかは分からないけど、アルを殺すためにまた同じように迷宮に来てるのかもしれない。


 だから急いでる。もし私たちより十層に到達されたら、そう考えるだけで焦りが湧き出てくる。せっかくかろうじて平静を保っていた心が荒れる。


 そんな荒んだ心のまま魔力を放ち、剣を振るい魔物を切り捨てる。


「魔石は回収しなくていい!ほっときゃそのうち迷宮の掃除屋ラビュリンスウォーカーが回収する!行くぞ!」

「はい!」


 私達も魔石は回収しない。教徒かどうかは分からないけど先達と同じように急ぐ理由ができたからだ。


 走る。ただ最短ルートを、下を目指して走る。

 幸いなことに先達が魔物を減らしてくれたのか魔物と遭遇することは少なく、遭遇したとしても手負いのものが多かったため手こずることはなかった。


「左です!」

「おう!」


 最短ルートを走り、次の左折で三層も終わりだ。これで次の層に行ける。


「……『フロアボス』、いると思うか?」

「……わかりません。まだ沸いてないかもしれないですし、先に行った連中が倒したかもしれないし、もしかしたら先に行った連中は『フロアボス』に殺されてるかも」

「……だな」


 不安を胸のうちに抱えながら階段を駆け下りる。


 四層の地面に、足をつけたときだった。


「うわぁぁぁああ!?」


 叫び声、それも悲鳴が響く。

 もちろん私たちじゃない。そもそもまだ接敵してない。


 不安に拍車をかける。これがただ魔物に襲われただけならなんてことない、ただの日常茶飯事だ。少し手を貸して助け出せばそれで終わる。


 けど、これがもし『フロアボス』と戦っての悲鳴なら、話が変わってくる。

 この急いでる状況で『フロアボス』なんて強敵と他人のために戦えるほど余裕はない。


「くっ……!レイチェル!最短ルートは!?」

「残念ですけど悲鳴が聞こえてきた方向です!」

「ああクソッ!」


 残念なことに、不運と不安にさらに拍車がかかる。

 なんでこんなタイミングで色々重なっちゃうかなぁ!?


 でも、何にせよ進まないって選択肢はない。


「……行きましょう」

「……ああ。足踏みしてる時間はないもんな。三人は大丈夫か?おそらく『フロアボス』、もしくはそれに準ずる魔物がいる。進んだとしても、先に行った連中と揉めるかもしれない。……それでも、進むか?」

「はい」

「いつでも行けます」

「大丈夫です!」

「……よし、行くぞ!」


 各々の意思を確認し、覚悟を決め前に進む。


 この先に何があるかは分からない。でも、進まないという選択肢はない。


 それに一応だが対抗策はある。流石に無策で『フロアボス』が闊歩してるかもしれないところに足を踏み入れてるわけじゃない。


 けど、それが上手くいくか、それで倒せるかは私には分からない。


 でも、それがここで足踏みし引き返す理由にはならない。



 そんな覚悟を胸に秘め、暗闇に身を投じる。

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