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6-54 決行前夜

「……おはよう」

「おはよう。答えは出たか?」

「……うん」


 一晩中考えて出した答えを、マルク達に伝えていく。


「……アルを殺しに行く」


 結局私は、私を諦めた。

 時間がないのもある。けど、それ以上にアルが思ってたことを知ってしまったら、もう自分の意思を押し通す気にはなれなかった。


「……そうか。レイがそういうなら、俺達も手伝おう」

「ありがとう……それじゃ──」

「今すぐとか言うなよ?」

「え……」

「お前何日まともな食事を摂ってないと思ってるんだ。そんなボロボロの状態で迷宮に行くとか危険すぎる」


 食事……いつから食べてないんだろ……


 アルから教わった魔術で記憶をひっくり返す。

 ……思い出した、引きこもり始めて二日目の昼くらいから研究を優先し始めて色々面倒くさくなったんだった。


「とりあえず食事を摂るところからだ。アルカディアはお前が健康的な生活を取り戻したあとだ」

「……はい」


 色々思うところもあるし急ぎたい気持ちのほうが強いが、マルクの言うことももっともだ。

 それにマルク達の協力がなきゃアルは多分殺せない。ここは大人しく言うことを聞いていたほうがいいだろうな……


「それに、俺達にも準備がある。とりあえず食べたらカイさんのところ行くぞ」

「……?わかった」


 なんでここでカイさんの名前が出るのかは分からないけどとりあえず頷いておこう。


 まあ何にせよさっさと食べてしまって次に行こう。


「すいません、これお願いします」

「わかりました〜!」


 パッと目についたものを注文し、届いたそばから胃の中に流し込んでいく。

 ……おいしい。空腹は最高のスパイスって言うけどここまで効果あるんだ……


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


 二人で手を合わせて短く唱える。

 早食いになっちゃったとはいえ作ってくれた人への感謝は忘れちゃいけない。


「よし、じゃあ──」

「次は風呂だ。温泉行くぞ」

「え〜……」

「恨むなら自分の乱れきった生活を恨め。ほら、行くぞ」


 ご飯だけじゃ終わらないらしい。


 これいつ終わるかな……


















「はぁ……疲れた」

「溜め込むからそうなる」

「そうだよ!はぁ〜やっと元のレイチェルちゃんが帰ってきた……髪もボサボサでほんと酷かったからね!?」

「流石に酷かったぞ」

「ベイン、デリカシー。……でもまあそれもそうだったかもね……」

「ああ。悩むのはわからんでもないけどよ、限度はあるぜ?」

「わかってるよ……で、マルク、まだダメ?」

「そろそろいいかな。カイさんのとこ行こう」

「さっきもカイさんの名前出てたけど……」

「手伝ってもらうんだ。カイさんも色々雲行きが怪しいのは察してたみたいで色々準備してくれてる」

「そうだったんだ……じゃあ早く行こう。もう夜だしあんまり遅いと迷惑になっちゃう」

「だな」


 四人で廊下を歩いていく。

 カイさんの部屋は教えてもらった。訪問の許可も前にもらってる。

 あとは手を貸してくれるかどうかだけど……まあ準備してくれてたみたいだし多分大丈夫でしょ。


 2206……あった。


「すいませ〜ん」


 三回のノックと共に声をかける。


「ん?レイチェルじゃねぇか」


 すぐに扉が開き、カイさんが出てくる。


「もう大丈夫なのか?」

「はい。マルク達のおかげで」

「そうか。よかった。まあなんだ、入れよ」

「ありがとうございます」


 促されるまま中に入る。


 入ってすぐ整理整頓が行き届いた内装の中に、袋に包まれた異常な魔力の塊が目に入る。

 なんだあれ……


「んで、話があるんだろ?」

「はい。……端的に言います。アルを殺しに行きます」

「……理由を聞いても?」

「アルから手紙が届きました。説明するよりこれを読んだほうがわかりやすいと思います」

「わかった」


 カイさんに手紙の一枚目を手渡す。


 ちなみに一枚目はみんなにも読んでもらってる。一通りの事情は伝わってるはずだ。


「……なるほどな。レイチェル、お前はアルカディアを殺す覚悟があるのか?」

「……わかりません。正直、まだどうするべきか悩んでます。……でも、この一ヶ月アルにはずっと迷惑をかけました。無理もさせました。これ以上、無理させたくないんです」

「……そうか。殺意じゃなく善意で、か……わかった。手を貸そう」

「ありがとうございます」


 なんとか協力は得られた……


 正直、まだ揺れ動いてる。殺したくない気持ちはまだ心の内で燃えている。

 でも、それよりこれ以上無理させたくないという気持ちのほうが強い。


 だから早く行ってあげたかったんだけど……今からはさすがに無理かな。カイさんの予定もあるだろうし。


「決行は?」

「できるだけ早いほうがいいです。できるなら明日にでも」

「じゃあ明日行こう。少し作戦を決めよう。時間大丈夫か?」

「はい」

「ならざっくりとだけでも作戦を決めよう。じゃあ──」


 私達のパーティーにカイさんを加えた動きを決めていく。

 このタイミングで人を増やすのは危険だけど相手はカイさんだ。きっと上手くいくはずだ。



 そうして作戦と立ち回りを話し、蝋燭の蝋は溶け、夜が更けていく。

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