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6-53 矛盾

 考える。


 自分は今どうするのが一番いいのか、どうしてあげるのが一番いいのか、ひたすら考える。

 茹だった頭で、やっと治した寝不足を再発させながら擦り切れた頭を働かせる。


 どうしたらいいんだろう。そのことでずっと頭が一杯だ。


 アルは殺して欲しい、そう切実に願ってる。

 でも私はそうしたくない。仲間を、友達を自分の手で殺すなんてやりたくない。できるなら誰一人死なずに解決したい。


 でも、アルはそれを望んでない。それどころか逆にアルを苦しめてる。


 アルの望みを聞いてあげたいし、叶えてあげたいけど一番の望みを聞いてあげられない私。

 私の重荷になりたくないがために自殺に私の手を借りたいアル。

 二人の矛盾する願いに対して答えを出すかどちらかを諦めないと問題は解決しない。


 そして解決に時間をかけ過ぎれば天秤はひっくり返り、世界は滅ぶ。


 なんて面倒な問題なんだ。こんなトロッコ問題みたいな……いや、まんまトロッコ問題かな……何にせよこんな難題こんなタイミングで問いかけてくるなんて黒幕はよっぽど悪趣味だぞ……


 いや、考えさせることで焦らせるのが黒幕の狙いかもしれない。


 ……思惑に嵌るのは良くない、問題を簡略化して考えよう。


 極論取れる選択肢は三つだ。私の意思を諦めるか、アルの意思を諦めるか、第三の選択肢を探すか。

 そしてこれを考えられる時間制限(タイムリミット)はそこまで長くない。

 この先の迷宮を攻略する時間を考えればここで考えすぎると後々時間が足りなくなるかもしれない。


 要するに、三択から今すぐ一つを選択しなきゃいけない。

 しかも三つ目は時間がかかるのが分かってるからこの状況じゃ選べない。


 ……本当に悪趣味だ。どっちを取ってもどっちかは諦めなきゃいけない。


 取れるのは、私か、アルだけ。


 どれだけ考えても問題の根幹であるこの部分だけは変えられない。


 願いを叶えてあげたいけど、叶えてあげたくない。

 この矛盾が私の頭を蝕んでいっていた。




















「はぁ……カイさん、これでいいんですか?」

「おう!助かるぜ」

「これただの魔石ですけどどうするんですか?」


 迷宮の三層で手当たり次第魔物を狩ってその魔石をカイさんに渡していく。


 属性がある魔石とかならまだしもこんなただの魔石をどう使うんだろうか。


「んっとな、この聖遺物は魔石を食ってその魔力を溜めるんだ。こんな感じでな」


 そういうとちょうど手に握っていた魔石を特殊な形状の槍に落とす。


 普通ならカツンと音を立てて弾かれるところだが……槍にぶつかった魔石はゆっくりと染み込むように槍に吸収され、なくなってしまった。


 面白いな……どういう原理なんだろうか。

 前にも依頼先で雇い主のゼノさんに聖遺物『紫電』を見せてもらったことがあるけどあれとはまた毛色の違う特性だな……

 溜めてるというからには放出もできるんだろうな。

 素人のゼノさんであの威力ならカイさんが振ったらどれだけの破壊力が出るんだろうか……


「カイさ〜ん!持ってきましたよ〜!」

「おお!大漁だな!」

「ここらへんの魔物は弱いんで戦い続けて乱獲してきました。足りますか?」

「こんだけあったらクズ魔石でも十分だよ。ありがとな」

「いえいえ、いつでも呼んでください」

「また聖遺物(こいつ)が必要になったら頼むよ」

「そういえばカイさん、ずっと魔石を食わせてますけどどんなふうに使うんですか?」

「ん〜、刺しと投げがメインかな。これについてる効果は『必中』、相手がどう動こうと追尾して当てる。それが溜め込んだ魔力でブーストされるからとんでもない破壊力になるんだよ。本来は己の魔力だけで動かすんだが自分の魔力だけじゃ満足いく火力はでなくてな、こうして溜め込んでるんだ」

「へぇ〜……名前はあるんですか?」

「聖遺物、神槍……いや、神器『グングニル』、それがこいつの名前だ」

「神器?」

「聖遺物より少し格が上なんだ。こいつを手に入れられたのはほんと運が良かったぜ」


 神器……そんな物があるのか。案外とんでもないものを見せてくれてるのかもしれない。


「俺達もいつか手に入れられますかね〜」

「『フロアボス』を倒せばいつかは手に入る。『グングニル』は九層の『フロアボス』を倒した時に出てきた」


 前々から疑問だったけど聖遺物って『フロアボス』を倒すと手に入るのか……余裕があれば倒しにいってみるのもいいかもしれない。


 ……まあ、レイの話だとやらないほうがよさそうだけど。


「あ、そういえばなんで急に魔石を食わせてるんですか?」

「……お前らがそろそろなんかやらかしそうな気がしてな。アルカディアが離脱しただろ、絶対一波乱あると思って備えてるんだ。なんかあったら呼んでくれ。その時はこの槍が火を吹くぜ」

「頼もしいです」

「おう!……っと、そろそろ時間か。戻ろう」

「わかりました」


 聖遺物談義を打ち切り、地上を目指して足を動かす。



 場所は違うとしても、それぞれ前に進むために葛藤/準備していた。

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