6-52 手紙 二枚目
意を決して、二枚目に目を通す。
『俺は、お前の最善の道を目指すという心意気が眩しかった。目が潰れてしまいそうだった。
俺はこの世界に喚ばれて一ヶ月で諦めた。
この世界と自分の意思を天秤にかけて、自分が諦めることでこの世界の人が助かるならと、諦めた。
代償を支払って無理に進むこともあった。
俺は結果的に、天秤にかけた自分を選ばなかった。
俺にはもう、この世界と天秤にかけられるのが耐えられなかった。
でもお前は違った。お前は天秤にかけるどころか両方取ろうとした。
凄いと思った。俺はそんな考えすらなかったのに、一ヶ月で諦めたのに、お前は一ヶ月何の成果も得られなくても諦めなかった。
そんな欲張りで諦めない性格は美徳だと思う。間違いなくお前の長所だ。
でも、俺はそんなお前を見るのが辛かった。
近道があるのにそれをせず、俺を生かす道を選ぼうとしてボロボロになっていく姿を見るのが辛かったし苦しかった。
だから、お前の枷にならないよう見えないところか事故に装って死ぬつもりだだった。
でも聖遺物が邪魔をした。
俺はこの時代に喚ばれる前はこんなもの持ってなかった。
これは明らかに黒幕の妨害だ。絶対に俺をお前らに殺させたいんだろう。
隠してて悪かったが、俺に植え付けられた記憶は一つじゃないんだ。
一つは俺が死ねば道が開くということ。これは言ったな。
そして二つ目は、道が開く条件が転生者と一定期間過ごしたあと自殺するか、転生者、もしくはその仲間に殺されることということだ。
本当は隠しておくつもりだった。お前にこんな重荷を背負わせたくなかった。
でも、マルクに言われて気づいたんだ。
隠し事してても何も変わらない、このままじゃ互いのためにならないということにな。
だから、全部ここに書いた。
もう隠してることはない。俺の知ってることは全部書いた。
これを読んでどうするかはお前に任せる。お前の意思を無視してまで殺してもらうなんて自己中心的なことはしない。なんとか死ぬ方法を探すさ。
俺は前述した通り迷宮の第十層で待ってる。
覚悟が決まったら来てくれ。
同郷の友人より』
二枚目の手紙を読み終える。
「っ……」
アルの苦労と気遣いを考えると自然と涙が零れる。
自分はなんでここまでされて自分の意見を押し通すなんて自己中心的なことをやったんだろう。
そんな自責の念で胸がいっぱいになる。
「レイ、大丈夫か?」
「うん……ごめん、ちょっと一人にしてほしいかも」
「わかった。落ち着いたら話してくれ」
「うん……ありがとう」
「気にするな。……無理はするなよ」
「うん……」
短く返事をし、ふらふらと、自分でもわかるくらい揺れながら歩いていく。
また心配をかけるだろうな……でも、申し訳ないけどこれだけは一人で納得いくまで考えたい。
何が何でも、これだけは譲れない。
そんな気持ちで、一人部屋に向かって歩いていく。
「はぁ〜……あいつ大丈夫かな」
「どう見ても大丈夫じゃないでしょ……ねえマルク、追いかけちゃダメ?」
「今は一人にしてほしいだろう。本人もそう言ってたしな。あとお前が行くと下手したら焼いてでも連れ戻すだろ」
「流石にそこまではしないよ!」
「そこまで、ってことは力付くで引っ張ってくるくらいはするだろ。だから前回も俺が行ったんだ」
「うっ……」
「まあ、今は信じてほっとくしかないだろうな。何やら深刻そうな顔だったし、よほど重要なことが書かれてたんだろ。今はレイチェルの整理がつくのを待とうぜ」
「だな」
「はーい……」
そこまで話したところで場に沈黙が満ちる。
やっぱりこのパーティーのリーダー的な立ち位置のレイがいなくなると少し静かになるな……
「あれ?レイチェルいないのか?」
「カイさん?」
「久しぶりにギルドにレイチェルが顔出したって言うから様子見に来たのに」
「レイはまた部屋に戻りました。例の手紙を見せたら一人にしてほしいって」
「そうか……まああいつがそういうなら大事なことなんだろうさ。んで、お前らは何やってるの?」
「レイが起きるの待ってたんですけど帰って行っちゃって暇になったところです」
「は〜ん……ならちょっとこっち手伝えよ」
「内容にもよります」
「んっとな、あんまり大声じゃ言えないんだけどな」
「変なことに巻き込まないでくださいよ?」
「ダイジョブダイジョブ、ギルド長も黙認してるし何も言われねぇよ」
「……わかりました」
意を決して内容を聞く。
黙認って表に出せないから黙ってるだけだと思うんだけどな……
「聖遺物に魔力を補給するのを手伝ってほしいんだ」
衝撃の内容がカイさんの口から紡がれる。
カイさん聖遺物持ってるのか……?