6-51 手紙 一枚目
「あ、おはよう!」
「起きたのか。まだ寝ててもよかったのにな」
「ああ。休める時は休んだかないといざとなったとき動けないぜ?」
酒場で食事を摂ってた三人と合流する。
みんなは元気そうでよかった。
「もう十分休んだから大丈夫。寝すぎて頭痛いくらいだよ」
「そうか。まだやばそうだったらもう一回寝かしつけるところだった」
「はは……それは遠慮したいかな……」
もう無理矢理寝かしつけられるのは遠慮したいな……いやまあ、あれでよかったんだろうけども。
「まあそれはそれとして、ありがとう」
「気にするな」
「仲間なんだから頼ってくれよな。ま、俺は頭悪いからなんも手伝えないけど」
「いつも無理しちゃダメだって言ってるじゃん!今回はマルクがやっちゃったけど次やったら私がやるからね!」
「はは……ごめんね」
ヒナに《精神睡降》なんて掛けられたら多分そのまま永眠する……
そんなちょっとした恐怖を覚えながらも、話題を切り替えていく。
「それで、私が寝てる間何かあった?」
「それなんだけどな、マルク」
「ああ。レイが寝てる間にレイ宛に手紙が届いてた。差出人は不明、投函場所も不明だ。明らかに怪しいから廃棄されるところを俺が受け取って保管してた」
「読むのはレイチェルちゃんが起きてからにしようって決めてたから待ってたんだ」
「手紙……」
手紙か……手紙でやりとりしてる相手っていうと学院のミシェル先生と父さん達だけど……差出人も投函場所も不明ってのが気になるな……
どっちも身分や立場を隠す理由がない。それに投函場所は郵送会社の手を借りた時点で記録される。
つまりそれが分からないということは自分の手でギルドのポストに投函したということだ。
差出人はこの街に住んでる人……その上で私に面と向かって会えず、手紙を書かなきゃいけない人……
……アルかな。
「読んでみよう」
「わかった。これがその手紙だ」
マルクは封筒を取り出し、私に手渡す。
そして中から二枚の紙を取り出し、記された文字に目を通す。
『レイチェルへ
まず、こういった手紙を書くことに慣れてないのでおかしな部分があると思うがそこは目を瞑って欲しい。それを了承した上で、この手紙を読んで欲しい。
まず待たせて悪かった。どうしても一人で考える時間が欲しかったんだ。
この数日、考えたがやっぱり俺は死にたい、さっさとこの世界から居なくなってしまいたい、その気持ちは変わらない。
あれから何度か自殺を試したが効果はなかった。
少なくとも窒息、毒、出血じゃ不死鳥の回復能力に邪魔された。
魔力を使い切った状況でも強制的に魔力が補給される。それを妨害することもできなかったし、補給に制限もなかった。
結局色々試して分かったのは、俺一人じゃ死ぬこともできないってことだった。
そこで、お前に死ぬのを手伝って欲しい。
いや、俺を殺して欲しい。
それが、きっと俺にとってもお前にとっても一番いいはずだ。
俺は第十層で待ってる。覚悟が決まったら来て欲しい。
アルカディアより』
一枚目を読み終える。
アルは結局死ぬ道を選んだのか……それも私に殺して欲しい、か……無理だ。
アルを殺せる気がしない……いや、二枚目を読んでから考えよう。
『レイチェルへ
こっちはお前にだけ伝えたいから日本語で書く。仲間に話すかはお前に任せる。
本当は書こうか迷った。書かないつもりていたんだ。絶対重荷になるから。
でも、マルクに言われて気づいた。このまま黙ってても何も変わらないって。
だから、全部書く。俺の思ったこと、心の内を、隠してたことを全部。
だから、ここから先は覚悟して読んでくれ』
手が震える。何を書かれたのか怖くてたまらない。
でも、読まないわけにはいかない。
字が少し乱れてるしアルも相当考えて書いたはずだ。
なら、読まないって選択肢はない。
汗を拭う。深呼吸をする。迷信でもなんでも使って緊張をほぐす。
……よし、読もう。
覚悟を決めて、この先の文字に目を通す。