6-48 仲裁
「レイ?どうしたんだ?」
「アルを探しに行く」
「……ついさっき喧嘩別れしたばっかりたろ?今は止めたほうがいいんじゃないか?」
「わかってる。でも実は──」
廊下でたまたま会ったマルクに事情を話していく。
私の推測、根拠、可能性にすぎないことも、全部事細かに話す。
「……なるほど、わかった。俺も手伝う」
「ありがとう」
状況はちゃんと伝わったみたいだ。話が早くて助かる。
「それで、心当たりはあるのか?流石にこの街を虱潰しに探すのは無理があるぞ」
「ない。でも見つけられると思う」
「……何か思いついてるんだな?」
「うん。マルクに手伝ってもらえるならできると思う」
「……わかった。できる限りのことはやる」
「ありがとう。それじゃ屋上に行こう」
「屋上?そんなのあるのか?」
「うん。人は全然入ってないし最低限の掃除がされてるだけだけど一応あるよ」
「そうだったのか。で、屋上で何するんだ?」
「新しい共術を試す」
歩きながら目的を話していく。
「……あれか」
「まだ未完成なところもあるけどいけると思う」
「改善策はあるんだな?」
「うん」
「わかった。なら安心して任せられる」
「ありがとう」
この一ヶ月で試行錯誤した過程で生まれた副産物、空間遷移のために下の層の地形を視るため作り出した《空間把握》の共術版。
結果的には空間遷移はできなかったし、ただの出力増強版になった挙句、色々視えすぎるし感じすぎるからキャパオーバーして使えなくなったポンコツ術式だ。
けど、改善策は思いついたし、見つけさえすればいいこの状況なら有効な手になる。
成功すれば一発で居場所がわかる。ぶっつけ本番になるけどやるだけの価値はあるはず。
「着いた。この上だよ」
「こんなところにあったのか……」
階段を駆け上がる。
一段とばしで駆け上がり、蹴破るように扉を開け、手すりの近くまで行く。
「……凄いね」
「ああ……流石五階建て。大抵の建物より高いから良く見えるな」
《空間把握》を使わなくても見つけられるんじゃないかというほど見晴らしが良く、この街の全貌を見渡せる。
見つけたあとの移動も考えると本当に都合がいい。こんなに条件がいい場所が近くにあったのは運が良かったな……
「マルク」
「ああ」
呼吸を整え、タイミングを合わせ、喉を震わせる。
「『全てを見通す瞳』『作り出すは天の瞳』」
「『全てを捉える心』『作り出すは大地の器』」
一言一句違えず唱え、二つの魔法陣を重ねるように描き、二人で巨大な魔法陣を形作っていく。
「『二つの瞳は』、『共鳴する』」
「『二つの心は』、『共鳴する』」
四節目を唱え終わったのと同時に、この魔術の名を叫ぶ。
「「《共鳴知覚・天眼/天啓》!」」
来た。この街のあらゆる景色、情報、動き、諍い、何もかもが見えて、感じられる。
けど、その情報量が多すぎる。《空間把握》の使用に慣れてる私達二人でも処理して理解できるような情報量じゃない。
だから──
「『私はその目に枷をかける』!《共鳴知覚・縛制統合》!」
制限をかける。正確には、取得する情報に条件を課す。
これなら共術の出力と効果範囲をそのままに欲しい情報だけを視れるし感じられる。
今かける制限は、聖遺物の反応。
アルが持ってる不死鳥の卵の反応だ。
どこだ……?迷宮区……流石にそんな分かりやすいところ居ないか。
南区……も違う、反応がない。北区東区西区もだ。
となると──
「──あった!中央区!」
反応があったのは意外にも近く、中央区の範囲内だった。
「レイ!」
「任せて!《空間歪曲・圧縮跳躍》!」
反応があった座標の真上まで、この見晴らしのいい地形を利用して一直線に飛び、そのまま直角に地上に跳躍する。
「アル!」
「は!?」
アルが居る群衆の中に着地する。
場は混乱に包まれ、各々手を止める。
突然のことで口が閉じない者もいれば、あまりの驚きに手に持ったものを落としてしまった者もいる。
けど、すぐにもとの目的を思い出す。
「邪魔だどけ!」
「そうよ!あなた急に出てきて邪魔しないでよ!」
「待てよ、そいつ命令にあった白髪の冒険者じゃないか!?そいつも殺せ!」
アルを囲む群衆はクレイ教徒達だった。
危ない……あと五秒遅かったら襲いかかってたな……
「レイチェル!何やってんだ!ついてくんなって言ったろ!」
「知らない!何を言われても私は死人が出るのに納得しないし黙って見過ごしたくない!」
「ああそうかよ!じゃあここで──」
考えていた通りまた喧嘩になる。
しかし、その喧嘩はすぐに止められた。
「双方武器を納めろ!騎士団を呼んだ!逮捕されたくなければ武器を納めさっさと帰れ!」
マルクがクレイ教徒も、私もアルもまとめて黙らせる。
もちろん騎士団を呼んできたなんてハッタリだ。
でも、私達にはその嘘を信じさせる物がある。
「俺は国に認められた戦魔術師だ!騎士団が来るまでに何かあれば俺が今すぐ取り押さえる!」
戦魔術師の徽章だ。
この徽章の影響力は私達もよく知ってる。こういう状況だと地位や権力といった力は効果的だろう。
その力に怯んだのか、教徒達はそそくさと退散していく。機転を利かせて場を収めてくれたマルクに感謝しないとな。
「……レイチェル、何しに来た」
「……アルが人を殺すのを止めに来た」
「はぁ?何を今更、迷宮でとっくに殺しただろ」
「あれは事故でしょ?不死鳥の命令の書き換えに失敗した事故」
「っ……」
私の言葉に返事はなく、返ってくるのは小さなうめき声だけ。
……図星かな。
「アル、自分から殺されにいってるでしょ?迷宮で矢をわざと受けたのもそうなんでしょ?」
私の予想を確かめるために、アルの考えをもっと知るために、言葉をさらに投げかけていく。