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6-46 離別

「アル!?何言ってるの!?私達のやらなきゃいけないこと忘れてないよね!?」

「ああ。()達は世界の滅亡を止めなきゃいけない。だからこうするんだ」


 アルの一人称が俺に戻った……つまり、もう人前だろうと取り繕うつもりがないってことだ。

 何をする気だ……?


「ギルド長、その提案受けます。というか受けさせてください」

「アル!わかってるの!?冒険者っていう身分を失えばこの街じゃ──」

「何も問題ないだろ。チンピラから絡まれたり、一部施設が使えなくなったって、だいたい力技で解決できる。レイチェルも見ただろ?今の俺達は一般人、普通の冒険者にとっちゃ暴力の塊だ。何があってもなんとかなるんだよ。それに、今更絡んでくる相手が増えたところで誤差だ」


 言い分はもっともだ。ちょっと野蛮だが納得できる。

 しかし、できるのとやるのは別の話だ。例え相手を蹴散らせるとしてもいたずらに力をふるい、怪我人、死人を出すのは納得できない。


 それにギルドを脱退するということは、迷宮に力押しで入れたとしても魔石の換金方法を失ってしまう。収入がなくなり食い扶持に困れば世界の滅亡を止めるための活動を続けるのも難しくなる。

 武器の手入れ、補充も同様だ。ギルドの施設を使えなくなると武器のランクを数段落とすことになってしまう。父さん達からもらった刀を失った私にとってはこれ以上戦力を落とすのは承服できない。


「アル!デメリットが多すぎる!ここでギルドを脱退するのは自殺行為だよ!」

「あのな、もうとっくにメリットデメリットの話をする段階は終わってんだよ。異常気象が発生してから一ヶ月以上かけて何が分かった!何を見つけた!これ以上時間かけてる余裕はないんだよ!あの異常気象──星の力の恐ろしさを知ってる俺が断言する!あれをこれ以上放っておけば取り返しがつかなくなる!これ以上モタモタしてると手遅れになる!もうなりふりかまってられる段階じゃないんだよ!」

「……だからギルドを抜けるの?手段も選ばず、目的のために犠牲を払う方法を取るの?」

「ああそうだ。これ以上こんな組織に所属したって規律と宗教のしがらみに囚われるだけだ。邪魔にしかならない。俺は何をしても、滅びを止めなきゃいけない!手段は選んでられないんだ!」


 言い分はわかる。私達は一ヶ月かけて何も見つけられなかった。時間を浪費しただけだ。

 あれの脅威を知ってるあるからすれば何もかも迂遠にすぎるのかもしれない。

 でも、迷宮の願望機──星の機能に直接干渉する以外の止め方は思いついてないし、そこにたどり着く方法もわからない。ここで活動の足場であるギルド団員の地位を捨てるのはデメリットの方が大きい。


 それに、犠牲の上に何か成したとしても、必ず不和が生まれる。次の問題が発生する。

 そんなやり方で解決したって、問題を先延ばしにするだけだ。


「はぁ……もういい。俺だけでも自由に動かせてもらう。ギルド長、お世話になりました。徽章(これ)はお返しします」

「アル!」

「……わかった」

「ギルド長!?」

「私からの命令ではなく、己の意思で脱退すると言うなら、私に止めることはできない」

「っ……アル!そのやり方はダメだよ!犠牲前提で動くなんて──」

「もういい。俺とお前とでは致命的に噛み合わないんだ」


 引き止める私にアルが返したのは、冷たく突き放す言葉だった。


「じゃあな」

「待って──」

「ついてくんな。()()()()()()()()()()()()なら、お前は俺についてくるべきじゃない──不死鳥(フェニックス)!」

「あ──」


 アルは焔の巨鳥を呼び出し、私の手を振り払うように窓から飛び立ってしまった。


「それで、お前はどうする。ギルドに残るのか?」

「……残ります。辞めたって、どうにもならないし、何も変わらない」


 それに、今辞めてアルを追いかけてもどうにもならない。あれだけ突き放されたんだ。追いかけたってどうしようもないだろう。

 今の私でも、それくらいはわかる


「ギルドに残る以上、ギルド内部の信者に狙われる可能性があることは理解しているな?」

「はい」

「私もできる限り手助けはする。組織の不穏を収めるのも私の役目だからな。しかし、一方に肩入れすることはできない。それは理解しているな?」

「はい」

「レイチェルは残り、アルカディア・ムーンライトは脱退する。それで構わないな?」

「……はい」

「それでは、アルカディア・ムーンライトの脱退をもって、レイチェルを監視の任を解く。ご苦労だった」

「ありがとう、ございます」


 まだ日は頂点を少し過ぎたくらいの頃合いだと言うのに、暗く淀んだ空気に満ちた部屋に、声がこだまする。

 いや、実際にはすぐに消えてしまうほど小さな声だっただろう。けど、それでも、私の中では響き続けた。



 私とアルが離別したことを示す声が、胸の中でこだまし続けた。

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