6-45 追放
「レイ!」
「マルク?」
「ギルド長が呼んでる!アルカディアもだ!急ぎの用らしい、行くぞ!」
「……っ!わかった!」
ギルドに戻ってきてすぐにマルクと鉢合わせし、ギルド長の部屋に連れて行かれる。
多分《空間把握》使って探してたんだろうな……私がギルドに帰ってきたあとに呼び出すんじゃなくてわざわざマルクを動かして探させたあたり本当に急ぎの用事なんだろう。……それこそ、クレイ教関連の話かもしれない。
……早く行こう。
マルクに連れられるまま走る。人目も気にせず、最短距離を辿るように。
「入れ」
「失礼します」
息を整え、三回ノックをした後、部屋の中から声が返ってくる。
その声を聞き。扉を開けて中に入る。
「連れてきました」
「ご苦労だったな。……さて、なぜ呼ばれたのか心当たりは?」
「……クレイ教関連ですか?」
「そうだ」
予想は当たっていたらしく、クレイ教の動きについて話が始まる。
「クレイ教は先程、ギルド『アンブロシア』の冒険者に信徒を殺害されたと公表した」
「っ──!」
悪い予感が当たってしまった。クレイ教は偏向報道で社会的にこっちを追い詰めるつもりだ。
「厄介なことに記録音声による証拠も揃っている。──確認する、お前たちは本当に信徒を殺したのか?」
「……結果的には。でもあれは事故です!それにあっちから手を出してきました!」
「はい。攻撃され、自衛のために起動した聖遺物が暴走した形です」
急いで弁明を紡ぐ私と、極めて冷静に状況を報告するアルは、目的は同じでもどこか対照的だった。
「そうか。……これが各地の教会で配布されている音声だ。私の権限で一つ拝借してきた。聞いてみると良い」
そう言うとギルド長は量産品の録声機を起動する。
記録されてる内容は様々なものだった。
悲鳴、怒号、祈り、様々な感情と意図が編み込まれた声が、魔道具越しに聞こえてくる。
そしてその全てが、こちらを敵視し、こちらが悪いかのような声だった。
「酷い……」
「都合の悪いところだけ意図的に切り抜かれています。明らかにこちらを貶める内容です」
「だろうな」
「どうするんですか?このまま放っておくわけにもいかないでしょう?」
マルクが私たちの意見を代わりに言ってくれる。
その通りだ。このまま放っておく、一方的に攻撃されるのを放置するのは論外だ。何か対策を打たなきゃいけない。
「勿論対抗する……と、言うべきなんだろうが、できることがない」
「……え?」
「残念ながら証拠がない。根拠もなしに相手の意見に突っかかるのはただの言いがかりだ。それに、組織としてもあちらのほうが強い。ギルドの中にもクレイ教の信徒が居る。全員が全員例の命令に従うわけではないだろうが、ここにもいつ信徒が乗り込んでくるか分かったものじゃない」
ギルド長の言い分はもっともだ。
証拠も無ければ、既に相手の手駒がこちらに入り込んでいる状態だ。
この状態で組織として標的であるアルと私を庇えば必ず内側から反発され、対立するし、下手すれば組織そのものが崩壊しかねない。
何もしない、何もできない、組織の長としては妥当どころか最良の手だろう。
けど、それはあまりにも……
「ギルド長……」
「わかっておる。しかし、ギルドからできることがないのも事実だ。できることと言えば、ギルドの中から攻撃されないようアルカディアを、もしくは両名を追放処分とし、ギルド団員の手の届かないところに逃がすくらいだ」
ギルド団員はギルドのメンバーとして所属する以上、ある程度その地に縛られる。
というか、所属する以上そこでやりたいこと、目的があるわけだから逆説的にギルド団員はラタトスクから離れないのだ。
つまりギルド長の目的は──
「アンブロシア、及びラタトスクからの追放をもって敵対勢力の手の届き辛いところに逃がす。そういうことですか?」
「……そうなるな」
またもマルクが言い当てる。
これも組織の長としては妥当な判断だろう。
組織の長が危険を秘匿すればトラブルを引き起こしかねないし、一方に肩入れした手段を取れば対立を生む。
私達にできる最大の支援だろう。
けど、焼け石に水だ。
クレイ教の信者は世界中に居る。なにせ世界で一番信仰されてる宗教だ。
ギルドの信者の手の届かないところに逃げたとしても信者が近くにいることは変わらない。
それどころかラタトスクを出てしまうと世界の滅亡を止める一番の心当たりの迷宮に近づけなくなる。
『アンブロシア』の団員という身分を失えばこの街で活動するのは難しくなる。
迷宮に近づけなくなるのは避けなきゃいけない。
「ギルド長、それは──」
「は、ははっ!はははっ!」
「……アル?」
断ろうとした時、何故かアルは笑っていた。
「ギルド長、その私だけでも提案受けましょう」
「……え?」
迷宮の最下層を目指す私たちにとって最悪の提案に、笑いながらアルは賛同した。