6-44 情報
「っ……とりあえずギルド長に一回報告しないと……」
「ああ。けど先に病院だ。不死鳥の回復脳でも完全に回復できたかは分からん。俺から見たら大丈夫でも、医者から見たらダメなところがあるかもしれん」
「……わかった」
「じゃあさっさと行くぞ。いい加減移動しないと水精霊が寄ってくる」
「……だね」
立ち上がり、拡張収納から予備の武器──学院に居た時から使ってた細剣を取り出す。
魔力放出の刻印は無いがアルも居るし私自身の魔術の腕も上がってるしこれで事足りるだろう。
「行こう」
「ああ」
五人の遺体を背に走り出す。
色々思うところはあるし、弔ってあげられないのは残念だけど、今は流石にギルドに戻るのが先だ、心残りではあるけど仕方ない。
「……アル!この先に水精霊が三体!」
「わかった!強引に突破する!掴まれ!」
「わかった!」
敵の位置を報告したのと同時に不死鳥を起動し、低空飛行する巨鳥に掴まるアルに引き上げられながら私も掴まる。
この一ヶ月で色々試す過程で見つけたら不死鳥の使い方の一つだ。これなら真正面から戦わなくても大抵の魔物はスルーして行ける。
不死鳥を維持するアルの魔力の問題もあって長時間は使えないが、先を急ぐこの状況にはうってつけの移動方法だ。
これなら一時間もしないうちに地上に出れる。
さて……操縦はアルに任せるしかないから私に出来ることは索敵くらいかな……よし、この時間で状況を整理しよう。
まずさっきの五人の口からクレイ教の名前が出てるからクレイ教絡みなのは確定、その上で教皇直々に『黒髪の少女と白髪の冒険者を殺せ』と命令が出たと言っていた。
朝地上で絡まれたのを見るに冒険者や魔術師といった職業、戦う力があるかないかは無視して信徒全員にこの命令が出ていると考えていいはず。
前々からクレイ教は怪しいと思ってたけどまさかここまで直接的に攻撃してくるとは……
それに極秘事項であるはずのアルの事まで知れ渡ってるということは貴族、もしくはアルの件に関わってる誰かから情報が漏れた可能性が高い。
それに私の氷属性魔術対策かはわからないけど火属性の魔術師が居た。
どこからかはわからないけど──いや、朝絡まれた連中にも通声機を持たせてたのか?
直接検めたわけじゃないからわからないけど、とりあえずさっきの通声機からこっちの、少なくとも私とアルの手の内はバレてると考えたほうがいいかもしれない。
面倒くさいことになったな……これは《空間把握》を使ってたのに通声機に気づけなかった私の落ち度だ。
相手の意図を知る前にこっちの情報を与えてしまった。
……これからはどう相手が干渉してくるかわからない。
最悪通声機で得た情報を意図的に一部切り取って情報屋に流すことで社会的に追い詰めてくるかもしれない。
対抗しようにも明確に分かってる相手の意図は私とアルを殺したいということだけ。
それに相手はおそらく世界で一番信仰されてる宗教のトップである教皇だ。何かあれば手下を切って逃げられるだろう。
情報を与えてしまった以上、組織の規模も上の相手にこっちから出来ることはささやかな抵抗だけ……
まだ迷宮を突破する方法も見つかってないのに邪魔が入るなんて……これじゃ思うように動けない……時間無いのに……
……ダメだ、どうするにしても今すぐは無理だ。一回ギルド長を通して判断を仰がないと。
時間無いのに待ちの選択か……きっついな……
「ふむ、特に異常は無いですね。話が本当なら信じられないくらい綺麗に回復してます」
「そうですか……」
「良かったな」
「うん」
迷宮を出てすぐに国営病院に連れてこられる。
本当はすぐにギルドに戻りたかったがアルに無理矢理連れてこられてしまった。
「話のとおりなら『黒の森』行きを勧めるほどの大怪我のはずですが……まあ何ともなさそうだし大丈夫でしょう。何かあればすぐ受診してください」
「……?わかりました」
なんか聞き覚えのない単語が出た気がするが今はいいか。
とりあえず異常がないならさっさと戻って報告するべきだ。
「アル、行こう」
「わかった」
病院を出て、一直線にギルド目指して走り出す。
一分一秒でも早く情報を共有しないと。
下手を打てば一方的にやられて終わりだ。
こんなところで邪魔されて足踏みなんてしてられない。
早くしないと。その一心で迷宮区を駆け抜ける。




