6-40 暴走
「違う……これもダメ……じゃあこっちは……」
地上で思いついたいけそうな案を片っ端から試していく。
魔力が足りなくなったら魔術薬を飲んで補い、時間が足りなくなれば寝食を削ってでもトライアンドエラーを繰り返す。
幸い、十層まで来る物好きはそうそう居ないため人目を気にせず色々試せる。
時々マルク達が来て色々試したりするけど今日は別件で別行動だからな……それでも試せることは全部やらないと……
「……?レイチェル」
「何?」
「お客だ」
入り口で見張りをしてくれていたアルから声が掛かる。どうやら人が来たらしい。こんなところまでわざわざ来るってことは多分マルク達かカイさんだろう。
「マルク達?ならわざわざ声かけなくても……」
「いや、違う。見たことない顔だ。あと様子がおかしい」
「……朝地上で出くわした奴ら?クレイ教の」
「おそらく。どうする、逃げるか返り討ちにするか。まあどっちにしろここまで近づかれてるんなら鉢合わせは避けられないし、今日の実験は終わりだ」
「はぁ……仕方ない、迎え討とう。どっちみち鉢合わせるならある程度準備してから行こう。でも基本攻撃はせず逃げる方針で」
「わかった。一応いつでも不死鳥を出せるようにしとく」
「ありがとう。……来たね。三、二、一、行くよ」
《空間把握》で相手の動きを視ながらタイミングを計り、完璧なタイミングで飛び出す。
「っ!?来たぞ!『黒髪の少女と白髪の冒険者』だ!殺せぇ!」
これまた分かりやすい宣戦布告なことで。録音してるしありがたいことこの上ないな。あとは逃げ切って証拠を突きつけるだけでこの騒動は終わりだ。
敵の数は五人……剣持ちの前衛が二人、弓持ちが一人、魔術師っぽいやつが二人……まあ逃げる分には何とでもなるはずだ。
「《氷結拘束》」
「ぐっ……例の拘束術式か!魔術師!」
「わかってる!《火炎》!」
「熱っ!くっ──追え!逃がすな!」
……マジか。強引に氷の茨を焼き切って追ってきた。
無理やり焼き切ったせいでところどころ火傷してるし……こいつら何が目的でそこまで……
「《火炎》!」
「っ!《霜獄の領域》!アル!」
「ああ!」
相手の攻撃魔術を打ち消し、空間跳躍で一気に距離を取るためアルとできるだけ体をくっつける。
「《空間歪曲・圧縮跳躍》!」
「っ!させるか!」
何かしようとしたのを察知してか、一本の矢が私たちめがけて射られる。
魔術では打ち消されると判断しての一矢だろう。けど、急いで射ってブレた矢程度ならアルの不死鳥不死鳥が防いでくれる。
はずだった。
「レイチェル!」
「っ!?アル!?」
なぜかアルは、不死鳥による防御ではなく、自分の身を呈して私を庇った。
「ゴッ……!」
「この位置……まずい、アル!不死鳥で回復して!アル!」
「あ、ああ……不死鳥、き、どう……」
アルの魔力が懐の卵に流れ、一ヶ月前に見た、あの焔の巨鳥が現れる。
持ち主が死んだ時、または死にかけた時は回復能力が発動するはずだ。不死鳥が起動した以上、放っておいてもアルは死なないはず。
なら、私はアルが回復するまでの時間を稼げばいい。
そう考え、コートを脱いでアルにかけ、刀を抜いた時だった。
「っ!?何だこいつ──ぐぁっ!?」
なぜか不死鳥は、アルの回復より眼前の敵の排除を優先して動き始めた。
「アル!?回復を優先して!」
襲われたとは言え、こいつらを殺すつもりはない。
時間を稼ぐだけなら私だけでもできるし、何より不死鳥は過剰火力だ。下手したら殺しかねない。
それに放っておけばいくら不死鳥の回復能力と言えど手遅れになる可能性がある。
だから回復を優先するよう命令させるためアルに声をかけたが……手遅れだった。
アルは出血多量で意識がない。
……まずい。持ち主のアルじゃないと命令を聞かせられない。このままじゃ誰も不死鳥に手を付けられなくなる。
「アルっ!《治癒》!」
命令を聞かせられる唯一の人を目覚めさせるため、ありったけの魔力と魔術薬を叩きつける。
けど、それでも目を覚ますことはなく、不死鳥は暴走を始めてしまった。