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6-39 不穏

 いつものように資料に目を通し、人がいないスペースがあれば魔術の実験もする。

 今回は複数属性を組み合わせ通常の魔術では出せない火力を出す組み合わせを探す実験だ


 けど──


「はぁ……これもダメか……」


 今回ので1387通り目だ。正直カウント合ってる気しないけど。


「レイチェル、そろそろ時間だ」

「そう言えば……はぁ……仕方ない、行こっか」


 アルに注意され、渋々歩き出す。


「入れ」

「失礼します」


 状況報告のため、いつものようにギルド長の部屋に入る。


「何か分かったか?」

「いえ……まだ何も……」

「そうか……お前達が色々調べ始めてもう()()()は経ったな」

「はい……」


 そうだ。あの日、迷宮の破壊を試み、アルを殺しかけたあの日から一ヶ月が経った。


「お前達も読んでると思うが、各地の異常気象が悪化……活性化し始めている。目立った被害で言うと、西の農作物の不作による物価の上昇、東の開拓地で疫病、南の王都は空が暗雲に覆われ日が差さず、海が荒れて魚が捕れないそうだ」

「っ……」

「もちろん、国も対策に動いている。これ以上被害を出さぬよう各地の貴族政治家が奮闘してくれている。だが、迷宮から現れた不審な人間を殺せば収まる、そんな与太話に踊らされる愚か者が現れ始めているのも事実だ」

「……どこからその話が広まったんですか?」

「さあな。私にもわからん。ただ、クレイ教が臭い。ここ数日、クレイ教のやつらの動きがおかしい。お前達も教徒との不用意な接触は避けるように」

「わかりました」


 クレイ教……王都遠征の時点で怪しいとは思ってたけど表だって動き始めたのか……


「お前達も分かってるとは思うが、客人を犠牲にした事態の収束なんぞ何の意味もない。不和を生むだけだ。くれぐれも血迷った選択を取らぬように」

「わかりました」


 もちろん殺しの手段を取るつもりはない。

 向こうも多分そこは分かってるはずだから立場上の義務として釘を差しに来たんだろう。


「それで、今日はどこに行くんだ?普段は迷宮に入り浸ってるようだが」

「今日も迷宮に行く予定です。出来ることは全部試したいので」

「そうか、気をつけることだな。まあお前達には無用の言葉か」

「いえ、ありがたく受け取らせていただきます」

「そうか……先を急ぐのだろう、下がっていいぞ」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」


 ギルド長に促されるまま部屋を出る。


「どうする?このまま迷宮行くか?」

「うん。時間は有効活用したい」

「そうか。なら、行こう」

「うん」


 食事は摂ったし、道具に不備はない。このまま行っても問題ないだろう。


「……」

「……」


 互いに何も話さず、ただ黙々と迷宮区を目指して歩く。


 話すべきことは大抵話し終えたし、今やってることも思いつきを全部試す行きあたりばったりな総当たり戦に過ぎない。

 だから離さないといけないことはないし、ここのところ迷宮にばっかり行ってるせいで話題にできるものもないから話せない。


 なんか、距離遠くなっちゃったな……まあ話しかければ返してくれると思うけど……


 そんなことを考えながら歩いていると、すれ違った集団よ視線がこちらに集中しているのに気づく。


 最初は夏にロングコートっていうちょっと奇抜な格好が視線を引いたのかなと思ったけどなんか目が血走ってるし凄い殺意だ。

 喧嘩吹っかけてくるのかな……ギルドの徽章をつけてからはなかったんだけどな。


 まあ一般人なら返り討ちにできるし最悪逃げればいい。なんか吹っかけてくるならその喧嘩買ってやろうじゃないか。


「居たぞ!『黒髪の少女と白髪の冒険者』だ!教会からの伝令だ!心置きなく殺れ!」


 ……チンピラの突発的な喧嘩じゃなく私達を狙って探してたらしい。

 教会……ということはクレイ教か?動きがおかしいとは聞いてたがここまで直接的に来るとは……


「死ねぇ!」

「《氷結拘束(フロストバインド)》」

「は!?んだこれ!?クッソ……」


 まあ一般人程度なら『お祈り』で底上げした魔力と魔術で縛り付けてやれば簡単に動きを止められる。


「こいつらどうするんだ?」

「ん〜……まあほっといていいでしょ。ニ、三十分くらいしたら魔術は解除するし、誰か騎士団呼んでくれるでしょ。行こう」

「……だな」


 喧嘩を売ってきた集団を置き去りに、迷宮を目指して足を進める。


 今は一分一秒が惜しい。こんな奴らに構ってられない。



 早く、迷宮を突破する方法を見つけなきゃ。

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