2-9 魔術探求
「なんか思いついた?」
「駄目だな。使えそうなものはいくつか載ってたがどれもそれだけでは簡単に突破される気がする」
「だよねぇ」
午前中の授業が終わり──というか何も思いつかず時間切れになっただけだが──昼食を食べているところだ。
なんかヒント出るかと思ってマルクに話題を振ったがマルクもダメそうだ。
「ヒナは?」
「無理〜!分かんない!」
こっちもだな。
というか氷や地属性といった物質を動かすような属性ならともかく火で上下移動するとか結構無理難題な気がする。
私やマルクのはまだ既存の魔術の応用とかで対処できそうな感じがするがヒナの課題に至っては新しい魔術を作るくらいしないと難しそうだ。
そんなの私でも難しい。
といってもこの先ずっとついてまわる問題なのも確かだ。
「どうしたら良いのかな〜」
「うーん、俺も行き詰まってるから午後の課外見学は参考にできそうなところを見に行こうと思ってる」
ミシェルが用意した本だけじゃ情報が足りなさそうだし、私もそうしようかな
「私も役立ちそうな授業の見学に行くよ」
「私も〜!」
全員午後は別々の授業を見ることになりそうだな。
火は酸素がないと燃えないので火の対策として風属性の授業を見に来たのだが……。
「あれ?レイチェルちゃんも見に来たんだ」
ヒナと被った。
「ヒナも来たんだ」
「うん!」
ヒナにはヒナなりの考えがあるんだろう。
私もちゃんと情報収集しないとな。
さて、授業が始まったのだがやっぱり分からないところがいくつかある。
基礎的な魔術の知識はあるつもりだがこうしてみるとやっぱりまだまだ穴があるようだ。
ミシェルが本を借りてきたということはこの学校には図書室があるのかもしれない。そこで本を借りてくるのも一つの手かもな。
「ねえ、レイチェルちゃんここ分かる?」
「ん?多分ここはこの式がこうなってて…」
今授業で解説してる《風砲》についての質問だ。
風砲は風属性魔術の風弾の上位互換といえる魔術だ。
ざっくり言うと風を勢いよく押し出してるだけなのだが威力が空中に分散しないようにしたり飛距離を伸ばすための術式がたくさん組み込まれて複雑化している。
そのあとも様々な術式を交えながら解説が進んだ。
「私はそろそろ違う授業行こうと思うんだけどヒナはどうする?」
「…私、まだ残る」
なんか手がかり掴んだのか?
何にせよ課題解決のきっかけができたならいいことだ。
「頑張ってね」
「うん!」
さて、今は氷属性の授業をみてから空間属性の授業に来たところだ。
昨日と今日を通していろいろ分かったこともある。
まず空間属性はその空間を正しく認識することが重要だ。
そのために《空間把握》という空間を正しく認識するための補助魔術がある。
というか空間魔術はこれを使うこと前提の構築をしてる感じがある。
空間把握の仕組みは魔力を一定間隔で放って魔力が通ったところはなにもない空間、弾かれたところは物体があるという判別基準で、まあ魔力を触覚に近い新たな感覚器官としてとして伸ばすような感じだ。
これを使って空間を認識した上で長距離を一瞬で移動できるよう空間を曲げ伸ばししたり物をたくさん入れられるよう空間を歪めて広げたりするのだ。
そしてこれらを行う上で絶対の条件がそこに何も無いということだ。
物があるのにそれを歪めてしまうと強引に形を変えることになるので物が壊れてしまうし、恐らく分子結合から歪めているのでもとには戻せない。
人に向けるなんてもっての外だ。
だから空間把握を正しく使用できるまでは空間属性の魔術を使うことはできない。というか禁止されている。
それに私の課題解決の手段の中に空間魔術を使いたいと考えてる。
だからこれからは空間把握を会得することが目標かな。
「おつかれ」
「うん、おつかれ」
「おつかれ〜!」
全員見学を終え寮に戻ってきたところだ。
「どうだった?ヒナ、なんか手がかり掴めた?」
「うん!なんとかなりそう!」
「よかった」
ヒナは風属性に可能性を見出したらしい
「マルクはどうだった?」
「こっちはまだまだ、かな」
「そう…頑張ってね」
「ありがとう。それで聞こうと思ってたんだが、その本、どうしたんだ?」
「ああこの本?図書室から借りてきた」
そう、ミシェルの借りてきたという発言を手がかりに探したところやっぱりこの学校には図書室があった。
「何を借りてきたんだ?」
「魔術について書かれてるやつ。それも基礎的なところから載ってるやつ。寮にいる間もできることをやろうと思って」
「なるほど、確かに暇だしな。俺も明日借りて来るとするか」
「ヒナも借りてきたら?」
「そうしたいんだけど……本、読めないんだよね」
「読み書き、苦手なの?」
「うん、ちょっと。読めないわけじゃないんだけど」
「じゃあ俺たちが教えれば良いじゃないか」
「そうだね簡単な読み書きなら私もできるし」
「ほんと!?ありがとう!」
こうして三人で本を読むことが決まり、三日目が終わった。