6-37 出来ることと、したくないこと
「ということで、空間の歪み……空間断裂による破壊はうまくいかなかった」
人も魔物もいないのを利用して十層でそのまま話し合いに移る。
「あれで無理なら俺達に用意できるものじゃ無理だろ」
これから次の策を出すため話し合おうというところでベインが結論を叩きつけてくる。
「ん、ん……はぁ、まあそうだね。他にも色々試したいことはあるし試すつもりだけど多分あれで無理なら無理。となると他に下に行く手段を探さないといけないんだけど……」
「空間魔術での空間遷移とですり抜けるのは?」
「そのレベルのは私には使えないし遷移先の状況がわからないと物体にめり込んで最悪死ぬからダメ。あと成功報告が最後に上がったのが百年単位で昔の話だから情報も足りない」
「そっかぁ……」
「確かレイは魔法陣に魔力を挟み込んで相手の魔術をバラせたよな?迷宮自体が魔術の一種っぽいし無理やりバラせないか?」
「ん〜……魔法陣がどこにあるのかわからないからちょっと難しいかな……」
ぱっと思いついた案にできるかできないかという事と、その理由を簡潔に答えていく。
「ん〜迷宮のどこかに階段があるっていうのも希望的観測にすぎないし現実的じゃない。……なあ、やっぱり一回アルカディアを殺してみないか?」
最後の最後の手、絶対に取るつもりのない手段をベインがサラッと口にする。
「ベイン?ちょっと外で話そっか?」
「いやいや待て待て待て!というか外ってどこだよ!?流石に俺も考えなしに殺すつもりじゃない!あの……ほら、そいつが持ってるっていう聖遺物!不死鳥の卵!不死鳥っていうくらいだし多分再生能力ぐらいあるだろ?だから一回仮死状態くらいまで追い込んでなにか起きないか試してみようって話だ!」
私の考えがちゃんと伝わってなかったみたいなので威圧感いっぱいで外に連れ出そうとしたが断られてしまった。
どうやらベインにもちゃんと考えがあるらしい。
不死鳥の逸話はこの世界にもある。名前からしてそれに関係があるだろうという魂胆で多分あるはずの不死鳥の逸話の再生能力に頼って仮死状態まで追い詰めてみよう、という話らしい。
「わかった……でも、私としてはやりたくない。あるかもわからないものに頼って行動に移すのは綱渡りがすぎると思う」
「というかその聖遺物を起動した状態を見たことないからなんとも言えない」
「それだよね〜ねえ、試しに起動できない?」
「わからん。俺も聖遺物が何なのかよくわかってないしな。まあ起動してみるのはいいが何が起きるかわかんないぞ?」
「それを確認するために起動するんだ。何かあったら俺達が止めるから起動してみてほしい」
「わかった。少し離れててくれ」
とりあえず聖遺物がどんな物か見てみるということで話が決まる。
アルに言われた通り少し離れたところでアルが聖遺物を起動するのを待つ。
「ふぅ……起動」
軽く深呼吸した後、短く唱え、魔力を一点に集中させる。
その瞬間、アルの手のひらからぶわっと、火柱が立つように卵から炎が熾り、巨大な鳥の形を取る。
「おお……動かせる?」
「ああ」
不死鳥の性能を確かめるように十層をぐるっと一週間飛ばしたり、サイズを小さくしたり大きくしたり、焔を吐かせてみたり、色々試してできることを把握していっている。
……ぱっと見ただけでもかなり強いのがわかる……明らかに火力がおかしい。さっき吹いた焔なんてヒナに火力で勝つレベルだ。
それをポンと出してくる……やっぱり聖遺物って凄いんだな……
「で、再生能力はありそうか?」
「……わからない。あったとしても条件付きでの発動だと思う」
本題をマルクが聞き直し、それにアルが答える。
再生、回復能力の有無は不明……となるとやっぱりやりたくないな……
「そうか……でも仮死状態程度ならレイチェル治せるだろ?」
「え」
「え、ってなんだよ。もうそれしかないだろ。というか仮死状態にとどめながら殺すのもお前くらいしかできないし」
「えぇ……」
方法も考えずに話進めてたのか……
「仮死状態はともかく、治療できる保証はないよ」
「なら魔術薬をかけよう。あれって経口じゃなくても効果あっただろ?」
マルクまで乗っかってくる。
マルクもそっち側かぁ……
「仮死状態って体温を下げまくったらなるんでしょ?ならやばくなったら私が温めてあげるよ?」
「ヒナ……」
まさかのヒナまで乗ってきた。
「レイチェル、構わんやってくれ」
「アル?」
まさかの本人まで乗ってきた。
アルは断らなきゃダメだろ……
「大丈夫だ、何かあっても俺達でなんとかする。なんなら温める用のサウナでも作っとこうか?」
「いやそもそも乗り気じゃないんだけど……?」
「でもやれることはやらないと進まないぜ?」
「ああ。俺一人死にかけて手がかりが得られるかもしれないならやってみてもいいんじゃないか?」
「だからアルは何で乗り気なの?」
「別に死ぬわけじゃないからな。治療する気でいるみたいだし。そもそも話をした時点で殺しにかかられるの想定してたからこの程度拍子抜けなくらいだ」
「えぇ……」
たとえ死ぬまでは行かないとしてもほぼ死ぬところまでやるんだ。なんで乗り気なのか私には分からない。
「レイ、実際に殺すわけじゃないんだ。危なくなったら俺が止める。治療も全力でやる。だから頼む」
「っ……」
十年来の友達にこうも真剣に頼まれると断りづらい……
マルクにも考えあってのことだろうしアルも了承してる……いや、ここまで避けてきてその手段を取るのは……
「……はぁ」
私の中で受けるか受けないか、二つの選択肢がせめぎ合った結果──
「アルもOKしてるし、今回だけだからね」
諦めて受けてしまった。