6-33 報告
それから私達は行きと同じように青空に白線を描きながら移動していった。
幸い、雨や強風など悪天に出会うのではなく、快晴の下を飛び続けられた。
そして、王都を出てから三日目の夜──
「おかえり」
「ただいま〜……」
「お疲れ様!」
「お疲れ」
夜闇の中、三人に出迎えられながら一週間ぶりにラタトスクの地面を踏む。
「お疲れ様。王都はどうだった?」
「色々凄かったよ。物価は安いし魔術に魔道具も発展してるし食べ物はおいしいし──異常気象の影響がないみたいに賑やかだった」
「そうか……」
とりあえず目的の一つだった王都の視察の結果を報告する。
「王都について話し合うのも良いが一回ギルドに戻ろうぜ?疲れてるだろ」
「ありがとう……」
「すまん、気が利かなかったな」
「いや、気にしないで。とりあえず人に聞かれても面倒くさいしギルドに戻ろっか」
ベインが気を利かせてくれたのをきっかけに街の外からギルドに帰るために歩き出す。
座りっぱなしでガチガチになった体をほぐすのも兼ねて、王都とは違う静かな夜の街を歩いていく。
「とりあえず、レイの話だと異常気象の影響はほとんどなかったっていう話だったが……」
「俺からもつけ加えさせてくれ。王都で色々見てきたが異常気象に関する情報をあんまり見なかった。聞いたとしても噂程度だったな。異常気象に対して注目してなかった。栄えてる分影響が薄くて人の注目を引かなかったんだと思う」
マルクが私の意見をもとに色々考えようとしたところにアルが情報を付け加える。
「ふむ……となるとやっぱりまだ目立った被害とかは無いんだろうな」
「時間はあるって考えていいんじゃない?」
「ああ。というか俺たちはその異常気象の正体を知ってるからこうして動いてるが一般人からしたら未知の現象だからな。何か起きてるのを知ってても国が改めて報道するのを待ってるんじゃないか?」
「それもあるかもな。でもよ、俺たちが勘違いしてるだけで本当は昔に起きた災いとは関係ないんじゃないか?別物だったりしてな」
「いや、それはない。私が南の海の暗雲を見てきた。あれは間違いなくアルの記憶と同じものだった」
至極当然の問いに、答えを返す。
それを確かめるための王都遠征でもあったんだ、ちゃんと確認してきてる。
「え、いつ見てきたんだ?」
「アルが気絶してた時魔術で視てただけ」
「ん〜まあレイチェルの《空間把握》の精度で見間違えるってことはないか。なら、ほんとに同じ災いなんだろうな……」
「だな」
「凄い信頼されてんな……」
我ながら視た、の一言で簡単に信じてもらえるのは嬉しい反面それどうなんだとも思う。
でもまたここまで視ることに変質した空間属性の魔術師はいないだろうし妥当と言えば妥当なのかもしれない。
「で、どう対策する?レイチェルの話だと結局迷宮をクリアしないといけないんだろ?でも十層に下に繋がる階段とか、穴は見つかってないし、九層にあそこ以外に下に繋がるものは見つかってない」
「うん。カイさん達にも手伝ってもらって改めて探索したり、私達でも資料読んだりしたんだけどそれっぽい手がかりは見つかってない」
「……そっか。なら破壊は?十層の床を壊すってのは……」
「それも今のところ成功例なし。過去に王国魔導師団の協力を得て数十人がかりで一層の床をぶち抜こうとしたことがあるらしいが結果は失敗、少しへこんだ程度で終わったらしい」
王国魔導師団……この国の上位魔術師や腕利きの魔術師たちが集まる騎士団同様、国営の武装集団だ。上位魔術師クラスのアベル達の就職先でもあったっけ。
そんな精鋭たちが数十人がかりでへこませるのがギリギリってなると真正面からは現実的じゃないか……
「じゃあ迷宮石人を利用して迷宮の材料を減らしていくのは?」
迷宮自体を体の素材にしてる迷宮石人が再生すればするほど迷宮を食っていくという性質を利用した方法だ。これなら確実に迷宮を削れるのがわかってる。
「それは試したが……ダメだった。床が減りすぎると魔力を使って迷宮が再生するんだ」
「ダメかぁ……」
「魔力を使ってるならあまりやらないほうが良い。さらに均衡を崩しかねない」
案を否定された上、ダメ出しまで食らってしまった。
う〜ん……となると本当に……
「正面突破もダメ、迷宮石人を利用した方法もダメ……となるとどこかに階段とか自然発生の穴があるのを探すしかない?」
「ああ。俺たちも現象それしかないと思って迷宮を探索してたんだが……ダメだ。少なくとも俺たちだけじゃ一年かけても九層を探索しきれない」
「迷宮の形はフロア状になってること以外何も分からないからな。まだ層の端も見えてこないしな。なんなら、迷宮の中は異空間なんじゃないかって説もあるくらいだ」
これもダメ出しを食らってしまった。
一年かけても……か、そんなに時間をかけていたら異常気象、星の自衛機能がどこまで地上に影響を及ぼすか想像もできない。
これって……
「……完全に手詰まり?」
「そうなるな」
この状況に打てる手はないと、そう合う私の言葉を、肯定する言葉がマルクの口から告げられた。