6-31 星の意志
「ん……」
「起きた?」
「……ああ。ごめん」
「いや、仕方ないよ。それで、なにか思い出した?」
「ああ。残りの記憶の一割、それもかなり重要なやつが」
重要なやつ。その言葉にどれほどの重みがあるかは聞いてみないと分からない。
けど、アルがわざわざそう言うくらいだ、きっと本当に重要なことなんだろう。
「……聞いても?」
「もちろん。俺が思い出したのは、迷宮の底にあるっていう願望機と、異常気象と、魔王のことだ。願望機は昔、多分それに関する資料に目を通したことがあるのを思い出したんだ。異常気象は、その正体。魔王に関しては……直接言葉を交わしたのを思い出したんだ」
願望機……今までただの魔力源、リソース程度に考えてたけど……
それに魔王との会話……何を話したんだ?
「両方願望機に関わる話だ。まず、その願望機はおそらく、この星の核……心臓と呼んでもいい。全ての物と生き物はそこから生まれ、そこに帰る星の心臓、生命の渦。それがおそらく願望機と呼ばれてる物の正体だ」
「生命の渦……読んだっていう資料はどんな事が書かれてたの?」
「紙じゃなくて石板で掠れてたから読み取れたのはニュアンスくらいだが、この世界……星はそれを中心に作られ、この世界を生きる全ての物の魂と肉体はそこから生まれ、そこに還る。読み取れたのはそれくらいだ」
「……宗教みたい」
「ああ。俺もそう思った。でも、実際これは本当のことだった。けど、宗教ってのもあながち間違ってないぜ」
「え?」
「この一週間、読める資料全部に目を通した時、クレイ教の聖書にも目を通したんだ」
クレイ教……この世界で最も広く信仰されてる宗教だ。お祈りによる『ステータス』の増強もクレイ教の教会で行われてるくらいだ。
「その聖書にも、載ってたんだ。ほとんど同じ意味の文言がな」
「え……?」
それは……どう繋がりがあるんだ?
「それで、二つ目の異常気象についてなんだが、あれの出どころ、動力源は星の心臓で間違いない。けど、星の心臓を利用した術者が発生させてるものじゃないんだ」
「それって……」
「何かのきっかけを理由に、星の自衛機能が動き始めたんだ。それで、今回のきっかけは……多分俺だ」
「……アルがこの世界に転移してきたから?」
「多分な。でも、根拠がある。迷宮の魔物の発生源だ。あれも多分、星の心臓から生まれてる。けど、迷宮自体は星の機能じゃない、誰かが作り出したものだ。本来ありえない支出が発生してて、それもあれだけの数の魔物を生み出し続けて、俺がここに転移したことでギリギリで保った均衡が崩れたんだ」
「でも、魔物も死んだら星の心臓に還るんでしょ……?それなら支出はプラマイゼロなんじゃ……」
「魔石だ。魔物から落ちた魔石は、そこに還ってない。地上に残り続けてるんだ」
「あ……」
確かにそれなら、星の魔力の支出はマイナスのままだ。
だからそのアンバランスを元に戻そうと星自身が自衛機能を働かせて、あの地獄を作り出そうとしてる……?
「だから星は地上を滅ぼして元に戻そうと……」
「おそらくな。星からすれば全部更地にして手元にリソースとして戻してしまえば問題は解決するんだ」
「っ……!」
「まあ落ち着け、ここで三つ目、魔王についてだ。俺の時代の異常気象……星の自衛機能が起動するきっかけになったのは多分魔王だ。それを、魔王自身も理解してた。だから、俺たちは魔王と戦うことになったんだ」
「それは知ってる……けど……」
話を聞く限り、星の自衛機能は術者、きっかけになった者の手から離れてる。なら、魔王を倒しても無意味だ。
「魔王を倒しても意味がない、だろ?でも、この世界は滅んでない。つまり、止める方法がある」
「あ……」
「具体的な方法はわかんないけどな。でも、止めるという意見は、魔王と一致したんだ」
「え……?」
「魔王はな、人間との共存を望んでたんだ。星の自衛機能が発動するきっかけになった行動は、自分の民、魔物を守るための行動だったんだ。知ってると思うが、魔物に知性はない。人間と共存し、手を取り合うには、あまりに不釣り合いで無理のある話だった。だから魔王は魔物の進化を望んで星の心臓に手を出したんだ。まあ、失敗したんだけどな。それでも、魔力は使ったんだ。それで、均衡が崩れちまったんだ。その事態の収拾に魔王も手伝ってくれてたんだ」
魔王が人類との共存を望んでた……でも失敗して滅びを招いてしまった……
……やばい、急に色々発覚したせいで理解が追いつかない。
「だから、俺たちと魔王は協力して滅びを止めたんだ。今回も、同じやり方で止められるかもしれない」
「でも、方法は……」
「分からない。だから、前回と同じように模索するしかない。でも、一つ確実なやり方がある」
「それって……」
「魔王が星の心臓に干渉できたんだ。なら、また同じことをすればいい」
一拍置いて、アルの口から言葉が紡がれる。
「──迷宮の底に行くんだ」
その言葉は、振り出しに戻るのと、何ら変わりない事だった。