6-28 視察 西区
「おお……なんか明らかにデカいのがあるね」
「ああ。あれデパートとかそういうやつなんじゃないのか?」
「そこまで大きいお店は見たことないな……まあ王都ならあるのかな?とりあえず聞いてみるのが早いかも。あ、すいません」
「はいはい、なんでしょう」
「私たち観光に来てるんですけど、あの大きな建物ってなんですか?」
「ああ『アンドロメダ』のことか。あれはね、西区で一番大きい魔道具店だよ。西区の目玉だね。この街に出回るいろんな魔道具が揃ってるんだ。何か入り用なら探しに行ってみるといい」
「そうなんですね……ありがとうございます」
アルの言った通り、大型のデパートとかそういうものなのかな?
まあそこら辺は行けばわかるしさっきの人のおかげで概要は分かった。
とりあえず視察もしなきゃいけないし行ってみるか。
「とりあえず行ってみようか」
「たな」
目的地を決め、二人で歩き出す。
さすが西区の目玉とも言うべきか、人が一番集まる大通り沿い、それも複数の大通りが交差する区の中心に位置しており、大通りを辿っていけば自然と辿り着くので迷うこと無く簡単に辿り着けた。
まあ、大通り沿いじゃなくても迷いはしなかったと思うけど。
「こうして見るとやっぱデカいな……」
「そうだね……ここまで大きいのは初めて見たよ。品揃えも気になるしとりあえず入ってみよっか」
「ああ」
好奇心を胸に、建物に向かって一歩踏み出す。するとウィーンと音を立ててガラスの扉が自動で開く。
「じ、自動ドア……」
「凄いな……」
早速その技術の一端を体感しながら歩いていく。
「はぁ……凄かったな……」
「うん。どれも初めて見るものばっかりだった」
大型ショッピングモール『アンドロメダ』に入ってから約二時間、様々なコーナーを見て回り、家電、調理器具、娯楽品、数は少ないが武器など、ジャンルを選ばず片っ端から見ていった。
感想は、とにかくとんでもない。
まだ未完成というか、発展、改善の余地がある物も多かったが洗濯機や電子レンジなど、現代日本にあるような商品の原型……十分に実用的なレベルの商品が取り扱われていた。
どれも興味深い。少しアレンジを加えるだけで飛躍的に使いやすくできる物が多い。
まあ現代日本の知識だけど。
まあそれはそれとしてあと一歩というところまで研究開発が進んでいるし、それが一般市民の手に届く範囲にあるって言うのが大きい。それも割とリーズナブルなお値段で。
ここまでの研究し、量産して、『アンドロメダ』を作るだけの材料と技術力……術式自体も綺麗なほど考え込まれてるのがわかるし凄い発展してるんだよな……
まあ、その結果テンション上がりすぎて疲れ果ててるわけなんですけども。
「はい、アル」
「ん、なんだ?」
「そこで売ってた」
「自販機って……マジかぁ……ちゃんと冷えてるし」
「ほんと凄いよね……現代日本と比べたら一歩劣るものが多いけど、それでもこの世界じゃ十分すぎるくらい。やっぱり王国魔導学会の人が凄いのかな」
ここ王都西区には王国魔導学会の総本山、王国魔導学研究所がある。
その人たちの研究がこういうところ出みを実を結んでるのかもしれない。
「だろうな。商品のタグ見てきたがその王国魔導学会の名前がほとんどの商品に載ってた。多分ここはある種の実験場なんじゃないか?」
「研究が実用的かどうかっていう?」
「ああ。よりいいものを作り、国民の生活を豊かにする。その基本理念に適しているかを試すにはうってつけの場所だと思ってな」
「確かにね……」
まあ言われてみればそうだ。ここで売れれば売れるほど国民にとって必要でありがたいものであり、売れなければ一部の層にしか需要がないということだ。
まあそれをやって費用と売り上げが釣り合うのかどうかという疑問はあるけど……それを何とかできるくらいのお金がきっと国のお抱えの組織にはあるんだろう。
「それでどうする?まだ見る?」
「いや、もういいかな。興味深いし面白いけど、記憶を取り戻す手がかりになりそうなものは無い」
「だね。次どこ行く?」
「どうせだし全部見ていきたいよな……じゃあ東区行ってみないか?」
「わかった。それじゃ行こっか」
色々面白かったけど本来の目的から逸れるので仕方ないか。
あふれ出る好奇心を抑え、次の目的地である貿易が有名な東区へ足を運ぶ。