6-27 視察 北区
「よし、どこから見る?」
「結局ぐるっと一周見て回ることになるしどこからでもいいんじゃないか?」
「ま結局そうなるよね……それじゃ、とりあえず今いる北区から見よっか」
「わかった。北区……って言ったら何があるんだ?」
「んっとね、もらったパンフレットとによると宿とか、レストランとか、商業施設が多いみたい」
「なるほど……ならどうせだし朝飯食ってから色々見て回るか」
「だね。何か希望ある?」
「ん〜……特にないな。あ、あれ旨そう」
「ん、じゃああそこにしよっか」
街を歩いてる途中でふと目についた食事処に入り、案内されるまま席に着く。
「お客さん、何にされます?」
「ん〜オススメはありますか?」
「それならうち一番のオススメがあるよ。これ、タチウオの塩焼き定食。王都は海が近いからね、海鮮系は新鮮なのが多いのさ。今朝も仕入れたばかりでね、今なら新鮮なのが揃ってるよ」
「じゃあそれでお願いします」
「私も」
「おうし承った!待ってな、すぐ旨いのを焼いてくる!」
注文を聞いたお爺さんは厨房に戻り、調理を始めた。
海が近い……確かに王都は海から近かったな。
この世界じゃ地震は起きないし、津波が起きた記録はない。だから海路を利用しやすい海沿い川沿いが発展しやすい傾向があった。
王都が栄えたのはそういう背景もあったんだな……
「はいお待ち!」
「え、早いですね」
厨房に戻ってから二、三分で料理をお盆に乗せてお爺さんが戻ってきた。
「質のいい魔道具が揃ってるからな。サクッと焼き上がってパリッとジューシーに焼けるんだよ。興味があるなら西区の魔工業施設に見学に行ってみるのもいいんじゃないか?」
「そうなんですね……あ、いただきます」
「おう。他のお客さんもいるんで感想は後でな」
料理を届け終えるとまた忙しなく厨房に戻っていってしまった。
「とりあえず、食べよっか」
「だな。いただきます」
手を合わせ、箸を手に取り魚の身を開いていく。
「ん、おいしい……」
「ああ……魚なんてこの世界に来てから初めて食った……」
「え、そうなの?」
「俺の時代は海藻の異常繁殖、魚類の凶暴化に加え突然変異、食えたもんじゃなかったからな」
「そうだったんだ……」
「てか箸なんてのもひっさしぶりに使ったわ」
「え、あ、確かに。普通に取ったけどここまで食器が揃えてあるの珍しいね」
「俺の時はナイフとフォークとスプーンしかなかったからな」
「へぇ〜……」
言われてみればここまで食器が揃えてあるのは珍しい。
これもいろんな文化や物が集まる王都ならではなんだろうか。
にしてもほんとおいしいな……魚を食べたのが数年ぶりなのもあるけど本当においしい。やっぱ新鮮なのが効いてるんだろうか。
調理器具もいいのがあるみたいだしそれもあるのかもしれない。
「ごちそうさまでした、っと」
「旨かったな……」
「うん。見た感じ個人経営の店だよね」
「ああ。従業員の数もそこまで多くないし、チェーン店って感じもしない」
「個人店でこのクオリティのを提供できるのか……早い旨い、それでいて安い。ん……ここまでのレベルで提供できるのは物価が安かったりするのもあるだろうけどそれだけじゃないはず……聞いてみるのが早いのかな」
「だな」
席を立ち、会計を済ませるときにこの安さの秘訣を聞いてみる。
「ここまで安い値段で提供できるのはなんでかって?」
「はい、遠くから来たものでちょっと気になったんです」
「ん〜っとな、まず一つ、物価が安い。港で直売で買うと特にな。二つ目が、ここはいろんな法律で生活が支援されててな、売り上げをそこまで出さなくても生きていけるんだ。だから費用と売り上げがトントンよりちょっと儲かるくらいでも十分なんだ」
「そうなんですね……」
法律で支援か……王都はこの国、この大陸で一番物と金が集まる場所だ、そういうこともあるのか。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。王都観光、楽しんでな」
「はい。ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
会計を済ませ、店を出る……前に、お爺さんから呼び止められる。
「おっと、聞き忘れてた。うちの料理は旨かったかい?」
「──はい、とてもおいしかったです」
「そうか!なら、是非また食いに来いよ!」
「もちろん、機会があればそのときはまた食べに来ます」
「おう、待ってるぜ」
元気で、活気にあふれ、老体をものともしないハキハキとした声を受けながら歩き出す。
「いいお店だったね」
「ああ。宿も近いしまた食べに行こうぜ」
「だね。それじゃ、次はどこ見に行く?」
「西区は工業が盛んらしいし見に行ってみないか?」
「それは私も気になってた。行ってみようか」
絶品の焼き魚で胃袋を満たし、これから歩き回る活力をもらった。
それでいて、北区の現状もある程度知れた。
長居したい気持ちはあるが時間は有限、またお腹が減る前に次の目的地である西区を目指して歩き出す。