6-26 旅路
「アル、そろそろ宿探そっか」
「そうだな……てかもう七時か」
「六時に出発したからお昼ご飯の時間抜いたらも時計一周分は飛んでるのかな?」
「もうそんなか。どれくらい進んだんだ?」
「え〜っとね、ラタトスクから……800km弱は飛んでるね」
「もうそんな移動してたのか」
「馬車と違って地形無視して移動できるからね」
特に大陸中央の山脈を少し迂回するだけで無視できるのが大きい。
それに馬車の何倍もの速度を保ったまま移動できるから本来西か東を経由して補給しながら行かなきゃ行けないところをほぼ一直線に行ける。
「っと、そろそろ降りるよ」
「はいはい」
座席から立ち上がり、同じ方法で着地する。
「よい、しょっと」
「はぁ〜……もうちょっとマシな着地の仕方あったろ」
「仕方ないでしょ、滑走路なんてないんだから」
「はぁ……まあいい。とりあえず宿探そうぜ」
「だね」
反論を諦めたアルを引き連れ、宿を探しに街へ向かう。
人目につかないように街から離れた位置で着地したせいで結構遠いな……町中は流石に避けるけどもっと近くに着地すれば良かった。
とはいっても別に歩くのが苦ってわけじゃない。
鍛錬を積み、『お祈り』でLvを上げてブーストされた身体能力なら一kmやニkm歩く程度じゃ疲れもしない。
二重に展開した《空間把握》のおかげで最短距離も分かるし野盗に襲われた程度で負けるような鍛え方してないからな。
単に暇なんだよな。話すことは大抵空で話してしまったし、アルの試みも数時間で結果が出るようならとっくの昔に出てる。
話す題材が尽きて会話にならず、ただ歩くだけになるから暇なんだよな……
仕方ない、夕食前の腹ごしらえくらいに思って大人しく歩くとしよう。
それからは結局何も話さず、何も起こらないまま歩く事約三十分、街の中の宿屋にたどり着き、夕食を摂り、無事に空いてた二人部屋を借りて、柔らかいベッドに体を投げ出す。
「はぁ〜疲れた……」
「お疲れ様。でも明日と明後日も同じくらい飛ぶよ?」
「わかっわてる。さっさと寝よう、流石に疲れた」
「私も。明日運転代わってくれない?」
「無茶言うな」
「だよね〜……明日も頑張ろっと。おやすみ」
「おやすみ」
一日座り続け、ガチガチになった体を休めるべく、睡魔に導かれるまま、ベッドの上で意識を手放す。
そこからは機体のメンテナンスをひ、二日空を飛び、同じように近くの街に立ち寄りながら南の王都を目指し、出発から三日目の夜──
「お、おぉ〜」
「こりゃまた凄いな」
王都に入ってまず目に入ったのは、豪華で、尚且つ均調が取れた外観、一つ一つがとてつもなく高いはずなのに街の至る所に配置された街灯、夜だというのに活気に溢れた人達──この世界で最も栄えてる街の様子が、爛々と輝いていた。
「あれ、あんたらどうしたんだい、そんな所で立ち止まって」
「あ、いや、ちょっとびっくりして。遠いところから来たもので」
「あんたら観光客か!遅くまで馬車に籠って疲れたろ。宿のアテはあるか?」
「いえ、まだ」
「ならいい宿がある。案内してやろう」
「ありがとうございます」
道端で出会ったお爺さんに連れられるまま街を歩いていく。
最初は旅行客狙いの強盗か何かと思ったが結局何事もなく案内されるまま宿にたどり着く。
「何か困ったらそこら辺にいる住民に聞きな。きっと答えてくれるさ。それじゃ、楽しんでな」
「ありがとうございます」
私たちを宿に送り届けるとお爺さんは帰っていってしまった。
「……本当に送り届けてくれただけだったね」
「ああ。何か一悶着あるかと思ってたがほんとに送り届けて終わったな」
「ただの優しい人だったね」
「だな。とりあえず空き部屋があるか聞くか」
「そうしよっか」
私たちの警戒は暖簾に腕押し、空振りに終わりつつも無事部屋を借り、宿の一室に二人で腰を下ろす。
「おお……」
「豪華……って訳じゃないが質がいいな」
「もうちょっとボロいの想像してた」
「俺もだ。もしかして昨日と一昨日止まった宿が悪かったんじゃないか?」
「いや、あれが多分平均くらいだと思う」
「じゃあほんとに品質がいいだけか」
「そうだね……とりあえず色々気になるけど、そういうのは明日にして今日は寝よっか」
「だな。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
いったん好奇心はしまい、ベッドに横になる。
その今まで使ったベッドの中で、一番ふかふかなベッドの中で旅の疲れを落としていく。