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6-20 最善の未来

「え……は……?何それ……」

「これを仕組んだやつが何をしたいのかは分からない。勇者が世界を救うのに加われない皮肉か、何かの当てつけか、単に俺が生きてると都合が悪いのか、必要以上に盤面に干渉しないための措置か、考察はできても確信は持てない」


 突然のカミングアウトで色々飲み込めない。先に進みたければアルを殺せ?ふざけてる。

 いやそれよりも──


「──まあ、何にせよ前に進むには俺を殺すしかない。その時は──」

「ふざけるな!」


 感情のままに口が動き、手がアルの襟元をつかむ。


「……仕方ないだろ。どうしたって、この制約は外せない。それに記憶は八十パーセントは戻ってきてる。さっき話した仮説だって、それなりに証拠がそろってる。この状況を解決したけりゃ、俺を殺すしかないんだ」

「だからって……!自分の命を簡単に捨てるなよ!」

「……仕方ないんだ。俺だって、この世界を滅ぼしてまで生きてられるほど図太くはないんだよ……!俺だってな!こんな制約課されてるのがわかった時どうしようか迷った!迷宮は十層で終わりですって言い張ってデマ流して逃げようとも思ってた!でもな……そう上手くは行かなかった……!」

「だから逃げるの!?自己犠牲って簡単な道に!」

「っ……!ああそうだ!俺にできることはやった!血の力の使い方だってお前に教えたし、教えられる情報は全部教えた!」


 アルが私の襟元をつかみ返しながら言い返してくる。

 その欠片も納得できない理論に私は、全力で言い返す。


「嘘つくなよ!まだ記憶は八十パーセントしか戻ってないんだろ!?その残り二十パーセントに何か対抗策があるかもしれないだろ!それにこの状況に一番適応してる人がいなくなるのが一番困るんだよ!」

「っ……!それは……いや、そんな不都合含めても俺一人死ぬだけで事態は前に進む!丸く収まるかもしれないんだ!」

「人一人犠牲にしといて丸く収まるわけないだろ!」

「お前だってなぁ!観たぞ、お前が五年前一人で頑張りすぎた挙句一回腕失ってベッドの上に寝かされてるの!んなことやったお前が言ってんじゃねぇぞ!」

「あれは全員が全力出した結果だし、あれが最善だった!けど今回は違う!まだ最善の道を探すために努力もしてないし、アルの提案は最善でも、合理的でもない!」


 話をずらそうとしたアルを引きずり戻し、自己犠牲なんて馬鹿な提案を叩き折りにかかる。


「それに、これはこの世界の問題だ。部外者のアルを犠牲にするなんて馬鹿げてる」

「……いや、俺には、この世界の全てを託された責任が……」

「それは、アルの時代の話でしょ?」

「あ……」

「無理しないでいいんだよ……少なくとも今は、アルに何の責任も使命もないんだから。それに何よりも、私はアルに死んでほしくない」

「……ごめん、ちょっと一人にさせてくれ」


 そう言い残すと、書斎の外二出ていってしまう。

 その動向を、《空間把握(グラスプ)》で見ることもなく、監視の任務も放り出して、アルの願いに応える。

 まあ誰かに見つかるなんてヘマしないだろう。


「はぁ……言い過ぎたな……」


 ここまでの会話でやりすぎたことを反省し、これからどうしようか考える。

 まあ何にせよアルが戻ってこないと何とも言えないな……この一週間で有益な情報は得られなかったしな……


 まあ仕方ない。できることからやっていくか。





















「おかえり」

「……ただいま。すまん、取り乱した」

「いや、私も言い過ぎた。ごめんね」


 開口一番、互いに謝罪の言葉を交わし、目を合わせる。


「とりあえず、もう自分ひとり死んで解決なんて言わないでよね」

「ああ。分かってる。死ななくても前に進める方法を探そう。ただ俺の時と同じなら長引けば長引くほど被害が出る。できる限り手短に……」

「それなんだけど、これ見て」

「ん?……なるほど、まだ時間はありそうだな」


 アルも理解してくれたみたいだ。

 わたしが見せたのは異常気象による被害の書類。各地で異常気象が起きて入るものの、実害はさほどなく、これまでの貯蓄でなんとかなる範囲のもの、と記された書類だ。


「それじゃ、時間はまだあるみたいだし、もうちょっと手を探ってみようか」

「わかった。……ただ、時間に限りができたのは事実だ。もう少し人手が欲しい。お前の仲間、頼れるか?」

「……わかった。話してみよう」



 自己犠牲の道を諦め、より良い道を探して動き始める。

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