6-19 急転
「はぁ〜……」
肺の中の空気を全部吐き出しながらベッドに横になり、体重を預ける。
なんだかんだ疲れたな……まあ手がかりらしきものは見つかったし、少しでも前に進んでる……と信じたい。
「疲れたし寝よっか」
「だな。やれることもないしさっさと寝て明日に備えよう」
「うん。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
互いに言葉を交わし、明かりを消して意識を手放す。
それからは目覚めては書庫へ行き、足りないものがあれば買い足し、マルク達と連絡を取り合い、たまに体を動かしに迷宮に──けど結局目立った成果は得られず、ギルド長の目を誤魔化しながら書斎を頼りに情報を集め、一週間が経過した頃──
「あれ、なんだろこれ」
「封筒?昨日はなかったよな」
「普通に書斎に置いてっただけっても考えられるけど……」
「俺たちに読めとも解釈できるな。……読んでみるか」
「ん〜……まあここにおいてるのは全部読んでいいって言ってたし読んでみよっか」
机の上に置かれた茶封筒を開け、中の書類に目を通す。
「東で異常気象、西で作物の発育不全、南で謎の暗雲、海上には嵐……ねえこれって──」
「はっ──はっ──はっ──」
「アル!?どうしたの!?」
同じように資料に目を通していたアルに目を向けると過呼吸になっていた。
焼け石かもしれないが急いで治癒魔術をかけ、背中を擦りながら落ち着くよう言い聞かせる。
「はあ、はあ……すまん、取り乱した」
「いや、それはいいんだけど……大丈夫?何か思い出した?」
「……ああ。というか、これ、俺の時代の状況にそっくりだ」
「っ!もしかしてこの時代も同じように……」
「……可能性はある」
「……対象法は……」
アルの時代といえばあの王都すら荒廃し、魔物が湧き、異常気象に包まれた世界だ。
この時代も同じような状況になろうとしてるんだったら、何が何でも止めなきゃいけない。
「……詳しいことは何も。俺の時は魔王という明確な目標があったが……今回はなんの手がかりも……迷宮の底にあるっていう願望機についても不明瞭なままだし……つっ……」
「何か思い出した!?」
「……ああ。昔、同じような状況で、仲間と話し合ってたのを思い出した。それで、それを加味した仮説なんだが、聞いてくれるか」
「もちろん」
「俺の時代で北は不毛の大地をだった、迷宮に見覚えがある、この二つはこれは話したな」
「うん」
「それで、不毛の大地だった理由なんだが、魔王がそこに陣取って魔物を発生させてたからだ。そして、多分あの迷宮は魔王が陣取ってた城なんだ。そして俺に見覚えがあるってことはそこまで辿り着いて、おそらく魔王と戦ったはずだ。その結果が勝ちか負かはわからない。けど、今まで異常気象が起きてなかったならおそらく倒せはしたんだろう。けど、今になってまた起きたということは、倒せはしたが殺しきれず、今になってまた動き始めたんだ」
「自分の城である迷宮に隠れて、ってこと?」
「ああ。おそらく魔王は自分の城の一番守りが固く隠れやすい場所、迷宮の最奥の五十層に隠れて回復するのを待ってたんだ」
「なるほど……けど、それじゃあ願望機はなんなの?」
「ここでさっき思い出した記憶なんだが、それは多分魔王のエネルギー源だ。流石になんの補助もなくこの大陸全土に異常気象を発生させて、迷宮を動かしてるとは考えにくい。それに、魔物の死体を読み取って魔力のパスがあるのも確認したことある」
「動力源……」
確かに辻褄は合う。ありえなくはない話だ。
「それを止めれば異常気象も止まるかもしれない。今異常気象を引き起こしてるのが魔王本人か、その息のかかったものかはわからない。けど、どっちにせよ、迷宮を攻略しないと何もわからない」
「なら今すぐにでも迷宮を調べに──」
「いや、その必要はない」
「え?」
「まだ話せないって言った植え付けられた記憶のこと、覚えてるか?」
「……?うん」
「その植え付けられた記憶……というか、情報なんだが、『迷宮の第十一層への道は、アルカディア・ムーンライトの命を代償に開く』。これが植え付けられた情報だ」
「……は?」
アルの口から、衝撃の言葉が紡ぎ出される。




