6-18 御伽噺
「ん、ん〜?」
「これはさっきのとおんなじ文法で……あ、そっちは後ろから先に読まないと」
「め、めんどくせ〜……」
長い月日をかけて文字も変化してたらしく、基本は同じで単語を読むのに不便はなくてもこういった文字の羅列は難しいらしい。
これはちゃんと情報を吸収できるようになるまで先は長そうだな……
特に今読んでる歴史系の本は専門用語的なものも多く数ある本の中でも郡を抜いて読みづらい。
直接的なヒントが多そうという理由で選んだが……これはチョイス間違えたな。
「ちょっと本変えよっか。え〜っと……これなんてどう?」
各地の民謡や御伽噺を集めたコーナーからメジャーな絵本を何冊か選んで手渡す。
中には昔母さんに読み聞かせてもらったものもある。
絵付きで内容も推測しやすいし少しでも言語学習の役に立てば良いんだけど……
「へぇ、この世界にも絵本とかあったのか……日本じゃ桃太郎とかかぐや姫とか有名だったけどこの世界じゃどんなの、が……」
「ん?どうしたの?」
アルは本を手にした瞬間固まってしまう。
厳密には、ある本の表紙をみた瞬間──
「これ……!」
「これは……!」
手にしていたのは、この世界じゃ有名な、勇者の御伽噺。
そういえばそうだ。この世界にはこの御伽噺があった。
これ母さんに読み聞かせてもらったのになんで忘れてたかなぁ!?
こんなわかりやすく勇者なんて書いてあって、内容もアルが話した内容に近い。こんなあからさまなヒント見逃してたとは……
「……間違いない。色々違うところはあるが話の大筋は基本同じだ」
「やっぱり……」
「これの出どころはどこだ!それを手繰れば俺がいた時代と今が何年後の時代なのか推測でき──所出不明、著者不明だとぉ!?」
「……それ少なくとも私の親世代も知ってるから少なくとも五十年くらい前からあるよ」
「じゃあ五十年前の文献──」
「……残念ながら、製紙技術が発展してないのでそんな前の文献残ってない」
「チッ」
内容は近いし、明らかなつながりも感じられる。でもそこから辿れるほど甘くはなかった。
これも黒幕の仕業だとしたらかなりやばいぞ……いやもちろん単に古いだけで詳しいことがわからないってのはよくあることだ。
けど、せっかく見つけた手がかりが空振りに終わっては落胆を隠せない。
「残念だったね……」
「……いや、まだ気になるところがある」
「気になるところ?」
「最後の展開だ。主人公が迫害されて悪い子としてると魔物が襲いに来るぞってところだ。少なくとも俺はそんな話知らないし、あの世の中で世界を救った……かどうかは思い出せないが見た目が魔物に近くなっただけで勇者を迫害するとは思えないんだよな」
「確かに。その時代を生きる人にとっては命の恩人だもんね……それを迫害するってなると──……ちょっと考えられないかも」
一瞬用済みになった勇者を処分しようとして国が国民を扇動した、なんて邪悪な考えがよぎったがそれはあまりにもアルに失礼だ。この案は胸の内に秘めておこう。
「となるとやっぱり黒幕の仕込みか?でも何のために……」
「ん……」
こればっかりは何も思いつかないな……アルを貶めるにしてもアルにも外見の変化がないと効果は薄いだろうし、何よりわざわざ御伽噺にする必要性を感じない。
「これはまだ分かんないな。一回置いとこう」
「だね」
アルも同じ結論に至ったようで、その話題から一回離れることになった。
「それじゃしばらく子ども向けの本でも読んでこの時代の文字に慣れる」
「わかった。わかんないのあったら呼んでね」
「助かる」
さてと、アルは絵本読み出したし呼ばれない限りこっちから声かけることはなさそうだな……私は私でなんか読むか。
手近にあった魔術関連の本を手に取り、椅子に座ってページを捲る。
なんか昔を思い出すな……
「レイチェル、そろそろ飯食いに行こうぜ」
「え、あ、もうそんな時間?」
「ああ。もう六時回ったぞ」
「え〜?……仕方ない、明日にするか……」
「流石に持ち出したら怒られそうだしな」
結構良いところだったが仕方ない。日も傾いて来たし、あんまり遅いとマルクに心配されるしな。
「それじゃ、行こっか」
「ああ」
書斎を出て、鍵を閉める。
今日は一応アルの裏に潜んでる黒幕に近づけそうな手がかりがあったけど……まだ先は長そうだな。
ざっくり一ヶ月くらい迷宮行けないかも、なんて言ったけど一ヶ月で終わるかな……まあ今考えても仕方ないか。結局はやれることやるしかないからな。
と、いうわけで手始めに空腹を満たしに美味しそうな匂いの出どころを目指して歩き出す。
昔話の内容は1-8に載ってます。