1-1 第二の人生
目が覚める。
なんだかデジャヴを感じるがそこは暗い森の中ではなく文明を感じる屋根の下だった。
起き上がろうとするが体は満足に動かせず、声を出そうとしても舌が麻痺したように発音はままならない。
しばらくそうしているうちに足音を立てながらこちらに一人の男が近づいてきた。
「目を覚ましたのか!?おい、ローラ!レイチェルが目を覚ました!生きてたぞ!」
男は俺を見るなり声をあげる。
まて、まず誰だこの人たち。それにレイチェルって誰だ。誰かと間違えてないか?
状況が分からない。一体何が起こってる?
そうこうしているうちにもう一人──杖を突きながら女性が歩いてきた。そして俺をみるやいなや涙を流し、俺を抱き上げた。
「良かった。本当に良かった…」
待ってくれ。本当に状況がわからない。この人たちは誰なんだ?
そして一体何でそんな簡単に俺を持ち上げられる?身長170センチはあるはずだぞ?それも抱き上げるように。
どんな巨人なのこの人たち?それにレイチェルって誰?
とりあえず一回下ろしてもらおう。
声を出すことはままならないのでジェスチャーで伝えるしかない。
腕に力を込めなんとか動かすことに成功する。
成功したはいいものの俺の視界に映ったのは、赤ん坊のようなか弱い腕だった。
なんだこれ…本当に俺は赤ん坊にでもなったのか?それもこの人たちの子供として?一体何がどうなってる?
「なあ。ローラ。俺も抱いてみていいかな」
「ええ。もちろんよ。ルーク」
俺は男──ルークに抱き上げられる。俺をだきあげた瞬間うめき声とともにルークも涙を流す。
俺はしばらく抱き上げられながら考える。
まずこの人たち──ルークとローラはおそらく俺の、いや、この体の親なんだろう。
そしてもしかして俺はこの体に入り込んでしまったのか?
あのとき引っ張られたのはこの体に引き寄せられたから?
仮説は立つがどれも正確性はないし、あまりにも常軌を逸している。
ああ、もうだめだ。体はロクに動かないしなんだか眠たくなってきた。
俺は緊張の糸が切れ、諦めにも近い感情とともにまどろみの中に意識が落ちていった。
それから数日、俺はルークとローラに世話をされながら過ごした。
その過程でいくつか分かった事がある。
やはりルークとローラはこの体の生みの親であること。
ここは日本ではないこと。更に言うなら違う世界であるということ。
現代日本とは生活の水準や基盤、それに文化も違うということ。
そしてこの世界には魔法──正確には魔術が存在しているということ。
丁度今来ているマリーというあの女性はこの村の数少ない治癒魔術師?らしく数日間定期的に来て俺に治癒魔術とやらをかけた。
話を聞く限り生まれたばかりの子供が死ぬことや衰弱することを防ぐためらしい。
今はルークたちとなにか話しているが治癒魔術はもうかけてもらったし話が終わればすぐに帰るだろう。
治癒魔術士という職業があるということは他にも魔術に関連した職業があるのか?
あるのならば前世にはなかったら職に就きたい。
前世と同じような道をたどるのは退屈だと思うからな。
しかし森の中で発動した謎のスキル《沈静化》の件もある。
これからは慎重に慎重に行動しないといけない。
得体のしれないものを何度も発動させるのはどんなリスクが伴うか分からない。
そして一番の問題がこの身体のことだ。
この体、実は男ではないのだ。
このことで一度パニックになり《沈静化》を発動させてしまったのだ。
勝手に入り込んだ身なので文句を言えた口ではないんだがまさか生きているうち?に性転換を経験するとか思わなかった。
この世界のことはまだ全然分からないが男と女でなにか待遇に差があったりするのか?
しかし自分のやりたいこと──現世にはなかった職業、特に魔術関係をしたいということを決めた以上それに向けて進むしかない。
ならばまずしなければいけないのは自由に動かせる体、環境を作ること。
この赤ん坊の体では一人で歩くことどころか物を持つことすらままならないからな。
次にできるだけ不安要素を排除すること。
赤ん坊の体でできることなんてないかもしれないが自分の行いには気をつけなければ。
体は女なのに一人称が『俺』だったり、前世の知識なんかを当たり前のように使えば周りからは不審がられるだろう。できるだけボロが出ないようにしなきゃいけない。
2つ目はまだ喋れる段階じゃないから置いとくとして1つ目の自由に動けるようになるために早く体を成長させなくちゃいけない。
そのために………たくさん食べてたくさん寝る?
……うん。赤ん坊だしこれくらいしかできないよね
本業との兼ね合いがあるので基本不定期更新です。