6-15 二日目の終わり
「ごちそうさまでした。それじゃ、なんかあったら連絡するから」
「ああ。ホウレンソウは徹底してくれ……っとわざわざ言わなくても良かったな。昔からそこは徹底してるもんな」
「まあね……それじゃ、また」
「ああ。またな」
短く言葉を交わし、マルクたちと分かれる。
「それじゃ、戻るか」
「うん」
酒場から貸し出されてる二人部屋へ向かって足を動かす。
人目につかないようにという思惑があるのか人が集まる酒場とは少し離れてるが、それでも同じ建物の中なので少し歩く程度の距離だ。
明日は何をしようか、なんてことを考えてるうちに部屋につき、二人で部屋に入って扉の鍵を閉める。
「ふぅ〜」
肺の中の空気を吐き出しながらベッドに腰を下ろし、拡張収納を机の上に放り投げる。
「それそんな雑に扱っていいのか……」
「頑丈に作ってあるからね。それこそ迷宮に持っていくのを想定して作ってるし」
「そんなもんかねぇ……素人の俺から見ても結構な代物に見えるが……これを学生が作れる環境が凄いと考えるべきか、これを作れる才能が凄いと考えるべきか」
「ん〜多分両方。あ、もちろん才能は私じゃなくて手伝ってくれたほうがね?」
「そうかぁ〜?」
何やらあらぬ疑いをかけられてるが何一つ嘘はついてない。
才能や能力の優劣という点でならどう頑張ったって上位魔術師組の方が上だからな。
「権利の登録とかはしたのか?」
「一応ね」
「じゃあ技術提供とか権利とかで金取れるんじゃないのか?」
「お金が入ってこないことはないけど……共同開発扱いにしたから収入は研究に関わった八人で等分してるからそんなにかな」
「もったいねぇ」
「もともとお金は興味なかったしね。作りたいもの作っただけ。ま、これの話はこれくらいにして寝よっか。明日も紙の山にかじりつくことになると思うし休めるときに休んどこ」
「ああそのことなんだが……」
私の言葉に反論するように、一回区切ってからアルは意見を述べる。
「俺を明日迷宮に連れて行ってくれないか?」
「迷宮に?」
唐突な話だな。それも目的地が迷宮とは。
「別にいいけど……ある程度戦えないと流石に危ないよ?本調子じゃないんでしょ?」
「ああ。全力を出せないのは確かだ。けど、あのレベルの魔物に遅れを取るほど優しい旅じゃなかったのは覚えてる」
「……そう。ならいいよ。検問は……確か、はいこれ」
「なんだこれ?」
「資金をもらう時に一緒にもらったんだけどね、これはこのギルドの関係者ってことを表す徽章。つまり身分証。見えるところに着けとかないと色々面倒くさいから着けといて」
「わかった」
そういうといつもの燕尾服の胸元に徽章を着ける。
もらったのは金の徽章だが……黒の燕尾服に金の徽章は映えるな。なんか高級感がある。
「こんな感じでいいか?」
「うん。それがあれば検問も引っかからないと思う」
「あんなザルな検問意味あるのか?」
「まあ効果はないかもしれないけど一応正規の手続き踏まないとギルドに対する信用がね」
「難儀なもんだな」
「仕方ないんだよ。検問自体に効果はなくてもその手順を正しく踏んでるっていうことが信頼につながるんだから。そのおかげで色々楽になってるからね」
「ふ〜ん……それじゃとりあえずこれをつけとけば迷宮には入れるんだな?」
「うん。ただ、ほんとにいくの?」
「ああ。あの場所は明らかに転移者の誰かが関わってる。俺とレイチェルが時代を超えて出会ってる時点で明らかになんらかの意図が隠れてる。俺にかけられて記憶操作の魔術もその証拠だ。それに俺の知る魔物と、昨日見た魔物は見てくれこそ似てるが中身が全く違う。あれは、人工的に作られたものだ。そんなもん作ってるやつはさすがにほっとけない。……なんだか、嫌な予感が……いや、多分昔の記憶、妨害で思い出せないけど、なんだかその記憶があれはよくないものだって言ってる」
アルの言うとおりかもしれない。
時代を超えてアルを召喚するなんて相当な代償を支払ってるはずだ。そこまでするなら絶対になにか意図があるはず。
それにアルの記憶が妨害を押し切ってまで危険を伝えてる……というか多分妨害を振り切ってまで思い出しかけるほどのトラウマが関わってる。
それに私自身も迷宮には何かあるって感じてる。
ここはアルの言う通り迷宮に行ってみるのも手かもしれない。
「それじゃ、明日の予定をマルク達にも……」
「いや、二人で行こう」
「え?流石にそれは……」
「これは俺たちの問題だ。できるなら、俺たち転移者、転生者だけで済ませたい」
「……わかった」
アルの言う通り、これは私達の問題。この世界の人を巻き込むのは避けるべきこと、その言い分は私も同じように感じていた。
それにマルク達はいつでも頼れる。頼るのはもう少し自分たちで頑張った後でも遅くはないだろう。
「それじゃ、明日は二人で」
「わかった」
アルがこの時代に来て二日目、二人きりの冒険十時間前、蝋燭の火は消えることなく、夜が更けていく。